さよなら減思力

安倍元首相の死に思うこと

 安倍元首相が2022年7月8日、選挙演説中に銃撃され、亡くなりました。たとえ異なる意見を持っていようとも、暴力に訴えて異なる意見を抹殺するのは、許すことができません。

 ドイツでも安倍元首相の襲撃事件は、「あの平和な日本で!」という感じで、かなりショックだと受け止められています。すでに、安倍元首相への追悼文を掲載しているメディアもあります。

 ドイツのメディアは、追悼文で単に、安倍元首相の功績を讃えているわけではありません。追悼文には、「日本のポピュリスト」とか、「大衆扇動型の国家主義者」などのタイトルも見られます。

 安倍元首相の政治には、「いさかいがつきもの」で、「スキャンダラスに塗れていた」とも評されています。

 メルケル元首相も自分のサイトで、安倍元首相への追悼文を公開しました。そこでメルケル元首相は、安倍元首相を同じ道を進んできた「友人」だったとし、「日本と世界は、偉大な政治家を失った」としています。

 メルケル元首相と安倍元首相の政治は、まったく質が異なっていました。メルケル首相は、財政規律を重んじ、金融危機で大きな打撃を受けた経済を地道に回復させてきました。それに対して安倍元首相は、アベノミクスによる大胆な量的緩和政策によって、借金をしてどんどんお金を市場に出し、経済を回復させてきました。

 最近よく使われることばを借りれば、メルケル元首相は「持続可能な経済」を目指したのだと思います。それに対し、安倍元首相は「派手な目先の経済成長」だけを求めたともいえます。

訪独時に、首相府内でメルケル首相とともに歩く安倍首相(中央)。2014年4月30日、ドイツ首相府前で撮影

 それによって、日本は確かに、戦後稀に見る経済成長を遂げたかもしれません。しかしぼくには、それでよかったとは思えません。

 ドイツにおいても、日本においても、両首相の在任期間に格差が大きく拡大しました。しかし、両首相の政策によって、ドイツと日本の間には、大きな差ができました。

 それは、技術革新力の差です。ドイツは将来を見据えて、技術革新力を蓄積することに専念してきました。それに対して日本では今、日本の技術革新力のなさがとても問題になっています。日本の技術に今、国際競争力はありません。

 その差は、コロナワクチンの開発でも、はっきりと現れました。米国ファイザー社のワクチンは、ドイツのベンチャー企業バイオンテク社が開発したものでした。

 日本は長い間、技術で世界をリードしてきた国です。それがどうして、こう落ちぶれてしまったのでしょうか。この状況では、いくら経済成長をしても、将来の日本の国益にはなりません。日本は、将来性のない国に成り下がってしまったのです。

 この傾向は安倍政権時に、より顕著となりました。

 安倍元首相が日本に変化をもたらしたのは、日本を技術国から観光立地国にしたことではないかと思います。それに伴い、世界各国からたくさんの観光客が集まるようになります。しかしコロナ禍で、観光産業の弱さが露呈してしまいました。

 安倍元首相の死直後に、元首相の失政について取り上げるのは、不謹慎だと思う人もいると思います。でもぼくは、そうは思いません。

 亡くなったからといって、過去の功績を賞賛するだけでは片手落ちです。過去の功績をしっかりと中立に評価し、いいところはよかった、悪いところは悪かったとはっきりといえる文化が必要です。

 日本は今、参議院選挙中です。だからこそ、褒めるばかりでなく、悪いところもしっかりと把握しておくことがより大切です。しかし日本では、どのメディアも死後、安倍元首相を賞賛するだけの論調で終わるのだろうなと思います。

 今、選挙戦中です。それって、間接的な選挙応援になりませんか。メディアの立場として、それでいいのですか。

 その結果、参議院選挙において、自民党に同情票がたくさん流れてしまうことが心配です。自民党が怒濤の如く、大勝するのだろうなと予想します。自民党が大勝すると、安倍元首相の念願だった憲法改正がより現実味を帯びてきます。

 それでは、亡くなった後も、安倍元首相の思う壺です。

(2022年7月08日、まさお)

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関連サイト:
独メルケル元首相の追悼文(ドイツ語)

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