ウクライナ避難民が受け入れられるのはなぜか

 ウクライナ戦争にともない、ウクライナからは現在、100万人近くになる市民がドイツに避難していると見られます。

 ぼくは2022年4月02日の記事「難民問題、2015年と2022年の違い」で、「ウクライナ難民」と書いてしまいました。ただ実は、「ウクライナ難民」ではなく、「ウクライナ(戦争)避難民」とするほうが、適切だと思っています。

 それは一つに、ウクライナ戦争から逃れてきた人たちは、ビザなしにEU域内に入国できるからです。EU域内の移動も自由な上、特別難民申請をする必要もありません。むしろ難民申請をしないほうが、早く住宅をあてがわれるほか、働けるようになるまでに時間がかかりません。

 仕事が見つかるまで、生活保護を受けることができます。仕事の斡旋のほか、ドイツ語教育や新しい職業教育を受けるために、授業料も負担してもらえます。

 それが、2015年のシリアなどからの難民と、2022年のウクライナからの避難民の扱いが、根本的に違うところです。

ベルリン中央駅に到着した後、飲み物やスナックなどを受け取るウクライナからの避難民

 ただ前述の記事では、それだけが2015年の難民と、2022年の避難民に対するドイツ社会の対応が異なる背景ではない、対応の違いには、もっと根本的なものがあると書きました。

 こう書くと、それはウクライナ市民が西洋人で、シリアやアフガニスタンからの市民のようにイスラム系や、黄色人種ではないからだと、人種差別的な背景があると書くのだろうと思う人もあると思います。

 人種差別的な面もあるのは、確かだと思います。文化の違いがあまりないのも大きいと思います。

 ただそれだけではなく、その他にも2015年と2022年の間に違いをもたらしている要因が、いくつもあると思います。

 目に見えることからいうと、ウクライナからの避難民のほとんどが、女性とこどもだということです。それに対し、2015年にシリアやアフガニスタンなどからきた難民は、主に男性でした。豊かな生活を求めてきた経済難民もいました。ドイツ社会では、犯罪が増えるのではないかと心配する声が増えました。

 ドイツの過去にも、目を向けなければなりません。第二次世界大戦において一番犠牲になったのは、旧ソ連市民でした。その多くは、ナチス・ドイツによって殺害されました。その中には、ウクライナ人もたくさんいました。

 その過去は、ドイツ市民にはいまだに消えていません。トラウマのようになっています。

 もう一つ重要なポイントは、ウクライナがドイツと陸続きだということです。ウクライナはドイツの隣国ではなくても、すぐそばに位置します。ウクライナ戦争がドイツのあるヨーロッパ大陸に、いつ飛び火するかわかりません。

 ウクライナ戦争において、ウクライナがロシアに占領されると、ロシアがさらに西側に侵攻してくる心配もあります。その意味でウクライナ戦争において、ウクライナは西洋の価値観、民主主義を守る最後の牙城になっているとも、感じられています。

 高齢化するドイツ社会において、ウクライナからの避難民は、教育制度も近く、しっかりした職業教育も受けています。そのためドイツ社会にとり、即戦力の新しい労働力だとしても期待されています。

 これらの背景からドイツ社会において、ウクライナ避難民が快く受け入れられているのだと見られます。

 しかしウクライナ戦争が長引けば長引くほど、ドイツ市民の生活にも影響が出てきます。ロシアに対する経済制裁の影響が、西側諸国やアフリカなど途上国にも大きな影響をもたらしてきました。

 ロシアからの天然ガスに依存するドイツでは、ロシアからの天然ガス供給量が大幅に削減され、この冬に十分に暖房できるだけの天然ガスがあるのかどうか、まだわからない状況になっています。さらにエネルギーのコストが上がり、インフラを招いています。

 低所得者層においては金銭的な余裕がなく、この冬にエネルギーコストを負担できなくなる人が出てくることも、心配されます。

 ウクライナ戦争による影響がすでに、ドイツの生活に影を落としはじめています。その影響が長期化すればするほど、ドイツ人の忍耐がどれほど続くのかが問題になります。

 ドイツ社会においても、戦時体制に似た状況になろうとしています。

(2022年8月12日、まさお)

関連記事:
難民問題、2015年と2022年の違い
2022年2月24日

関連サイト:
欧州安定イニシアチブ(European Stabiliy Initiative=ESI)の提案(英語)

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