宗教問題の相談支援窓口が必要

 安倍元首相が2022年7月、選挙運動演説中に銃撃事件によって亡くなりました。それとともに、旧統一協会の問題が明らかになってきました。

 旧統一協会による霊感商法やマインドコントロール、多額の献金、2世信者の問題、政治への影響行使などが、問題視されています。

 現在、被害者を救済するための法案について審議、議論されています。協会解散の有無について審議するため、今後質問権が行使されると見られます。

 ぼくはドイツから見ていて、この問題で日本で起こっていることについて、いくつか疑問を感じています。

 まず、根本的なことから。

 ここまでぼくは「教会」ではなく、「協会」ということばを使ってきました。宗教団体は基本的に、「協会」だと思っているからです。宗教団体だからということでわざわざ、「教会」とする必要はないと思っています。

 宗教は、団体ではありません。信仰であり、価値観の問題でもあります。同じ信仰と価値観を持った人たちの集まりが、その団体です。団体には、いろいろな団体があります。でもその団体が、宗教と真剣に関わり、宗教という神聖さを備えているかどうかの保証はありません。

 ヨーロッパでは宗教の名の下に、戦争が繰り返され、たくさんの人たちが命を落としました。宗教の名とともに、莫大な資産も蓄えられてきました。ドイツのカトリック協会では、未成年者に対する牧師による性的暴力が過去長い間に渡って行われ、それが隠蔽されてきたことも明らかになりました。しかしドイツのカトリック協会は、その過去をはっきりと解明しようとしません。

 未成年者に対する性的暴力がふるわれたのは、ドイツだけではありません。各国のキリスト協会においても、聖職者による性的暴力の問題が明らかになっています。

 それは、宗教団体が宗教の本来の真髄から離れた単なる人間の集団であるからです。だからぼくは「教会」ではなく、「協会」とする方が適切だと思っています。人間の集団だから、いろいろな問題が起こります。

 ぼくは宗教団体といえど、人間の集団だということを前提にすべきだと思います。人間の集団だからこそ、宗教団体であっても監視して規制すべき必要があります。宗教団体から被害を受けた、受けている人の相談・支援機関ないし窓口も、必要になります。

 こうした議論をせずに、日本では旧統一協会だけに焦点を当て、宗教団体全体の問題であることが忘れられています。

 ドイツでは以前、ドイツ西部においてアメリカ人牧師がイスラム教のコーランを焼却するしないで事件が起こりました。その時、宗教に関わる問題に対して、ドイツがどう対応しているのかについて取材したことがあります。

 その時なるほどと思ったのは、各州に宗教に関わる問題に対して、いわゆるオンブズマン的な組織が置かれていることでした。オンブズマン組織は、宗教団体の状況を監視して把握するほか、問題の起こしている団体について、社会に情報を提供する役割を担っています。

 同時に、宗教団体による被害で困っている人などの相談、支援窓口にもなっていました。

 オンブズマン組織は、予防と被害者支援を主な目的にしているということです。

 これは、宗教団体といえど、問題が起こって当然という前提に立っているからです。ドイツなどヨーロッパでは宗教が多様化していますから、宗教に関わり、いろいろな問題が起こっています。

仏像に罪はない。それを自分の利益のために利用する人間に、問題があるといわなければならない

 旧統一協会の問題を見ると、日本ではこれまで、宗教団体が監視されず、無規制状態になっていたといわざるを得ません。政教分離にばかり注目がいきすぎ、宗教団体が引き起こす問題に目をつぶってきたツケが、ここにいて溢れ出ているような気がします。

 気になるのは、日本では今、旧統一協会だけが注目されていることです。これは、旧統一協会ばかりではなく、宗教団体すべてに関わる問題だという認識が不足しています。

 日本が、ドイツと同じようなことをする必要はありません。しかし日本の状況に合わせて、宗教団体を監視して状況を把握し、その状況について情報を提供して予防するとともに、被害について相談を受けるほか、被害者を支援する機関が必要だと思います。

 実は、ドイツ西部のオンブズマンを取材した時、逆に相談を持ちかけられてしまったのです。

 「創価学会のことを知っているか」と、聞かれました。「日本の宗教団体ですね」というと、ドイツにおいて創価学会とのことで問題を抱えている人がいて、どうすればいいかと相談を受けているケースがいくつもあるのだといいます。

 問題の大半は、金銭的な負担から脱会したいがさせてもらえず、取り立てのプレッシャーに晒されているというものでした。「どうしたらいいだろうか」と聞かれました。

 ぼくは、日本でも同じ問題を抱えている人の話を聞いていました。しかしそれに対してどうすべきかは、答えようがありません18でした。それでも、「相談したいことがあったら、連絡していいか」と聞かれたので、「もちろんです」と答えました。

 ぼくはオンブズマン機関の前で、タクシーに乗りました。するとタクシーの運転手さんから、「創価学会のことできていたのか」と聞かれました。ぼくがどうしてそう聞いたのかと聞き返すと、運転手さんは「宗教問題のオンブズマンのところにいっていたのでしょう」といいます。ぼくが「そうだ」というと、「自分の友人の間に、創価学会のことで問題を抱えている家族が何人もいるのだ」といいました。創価学会から逃れるため、夜逃げをした家族もいるといいます。

 運転手さんは「どうすればいいのだろうか」と、聞いてきました。しかしぼくには、答えようがありませんでした。

 宗教団体に関わる問題は、旧統一協会だけの問題ではありません。与党がある宗教団体と深いつながりがあるからといって、問題から目をそむけるのは、政教分離の原則に反します。民主主義にも反します。

 日本においても、宗教団体全体を監視、規制し、被害者を支援する体制を築き上げてほしいと思います。

(2022年11月27日、まさお)

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関連サイト:
全国統一協会被害者家族の会

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