住民・国民投票は民主主義か

 今日本では、2024年10月27日投票の衆議院議員総選挙が行われています。

 ぼくは今日10月18日、ベルリンの日本大使館で在外公館投票を済ませてきました。しかしベルリンで投票する毎にいつも、ぼくの表は死票だと思っています。というのはぼくの地元では、自民党議員以外に当選する可能性はないし、過去にも当選したことがありません。政治を変えようと思って投票しても意味がなく、政治は変わりません。

 それは、国政選挙だけではなく、県や自治体の選挙でも同じです。

 ぼくの友人の中には、自分の地元もそうで、だから投票しないという友人もいます。「政治を変えるには、投票するしかない」というのは都会での話で、保守的な地方の現実を知らないでいっている一面的な主張だと思います。残念ながら、それが現実です。

 それでもぼくは死票だと思いながらも、何か戦略的に投票する方法はないかと模索しながら投票しています。

 ベルリンでは地方選挙であっても、居住する外国人には選挙権がありません。しかし外国人であっても自分の住むところの区議会において、住民質問制度を利用して自分の関心のあるテーマに関して質問することができます。

 ぼくは1回、その制度を利用して質問したことがあります。オンラインで区議会のサイトにおいて一つのテーマで最高3つ質問することができます。字数制限があり、意見を述べるのではなく、質問の形になっていないと認められません。

 質問が受け入れられると、何日の何時まで区議会議事室まで来るようにとメールで連絡がきます。議会では最初の30分、住民の質問に対して区長と各党が回答、意見を述べる時間がとってあります。

 最初に質問者の名前が呼ばれ、自分で質問を読み上げます。その場にいないといけません。その日の時間内に自分の質問の順番が回ってこないと、回答は文書で行われ、質問と回答がネットで公開されます。

 実はむしろ、その方が効果的です。回答がしっかり残ります。ぼくの質問と回答をネットで見たといって、米国ロサンジェルスタイムズの記者がコンタクトしてきました。

 ドイツでは自治体によって外国人評議会を設けて、外国籍の住民の意見を取り入れようとする制度もあります。

 もう一つ住民が政治に直接関わる手段は、住民投票とか国民投票といわれるものです。住民からある一定数の署名を集めれば、住民に審査してもらうための投票を実施することができます。

 投票では過半数ではなく、得票数が有権者の何%になるかで、住民がそれに賛成したことにするのか、反対したことにするのかが判断されます。ドイツでは住民・国民投票に投票できるのは有権者なので、外国人住民は投票できません。

 その結果には、法的拘束力がありません。あくまでも住民がどう思っているかの目安になるものです。しかし住民・国民投票によって、住民が直接政治に関わるテーマに関して賛成か反対か意思表示できるので、政治に影響を与えることのできるものとしてとても民主主義的だと思われています。

 ぼくは、そうは思いません。というのは、住民・国民投票では賛成か反対かしか問われないからです。投票の結果も、住民が賛成したか、反対したかのどちらかに片づけられてしまいます。

 それで本当に、民主主義的な手法でしょうか。民主主義は「民主主義とは?」の記事で書いたことがありますが、多数決で決まってしまうものではありません。異なる意見を持っていても対話して、お互いが譲れるところは譲って、両者が納得できるような形にまとめるのが本来の民主主義の姿です。

 その意味からすると、住民・国民投票は白黒をはっきりさせるもので、住民の総意を確認する住民アンケート調査と大して変わりません。それでは住民・国民投票は、本来の民主主義の意義に反します。

 投票後に反対意見も取り入れて、政治において住民の多様な意見を何らかの形でまとめない限り、民主的にはなりません。この点は多分、誤解されているのではないかと思います。

ドイツ連邦議会では、毎年6月からドイツ統一の日の10月3日までの毎日、夜暗くなると国会施設の屋外の壁を使ってドイツの近代史と政治に関するドキュメント映画が上映されます。一種の政治教育プログラムで、こうして市民の政治参加意欲を促進しています。

 政治に住民、市民の意見をもっと反映させようとする試みが、「市民評議会」といわれるものです。ドイツの自治体などでは、自己申請によって住民有志を集めて市民評議会を設置しているところがあります。しかしそれでは、評議会委員の意見が政治的に偏ってしまう危険があります。

 それを避けるため、市民評議会の委員をルーレットやくじ引きのように抜き打ちで選出します。ドイツの下院である連邦議会では、この方法を使って市民評議会が設置されます。委員は30人から200人。対象は、16歳からのドイツ各地に住み、住民登録されている住民です。ドイツ国籍を持っている必要はありません。

 この手法によって、住民の多様性と意見の多様性を確保します。市民評議会は連邦議会内に集まって意見を出し合い、市民の答申案をまとめます。

 市民評議会は連邦議会議員がこのテーマで市民の意見を聞きたいとして、市民評議会の設置を申請して設置されます。たとえばコロナ禍の政策に関し、住民の意見や修正案が出されたことがありました。

 問題は、こうしてまとめられた住民の意見を国会内の審議と決議にどう反映させるかです。それはまだ残念ながら、国会議員に委ねられています。しかし住民の意見を政治に届けるには、選挙よりは直接で、具体性があります。

 ぼくが質問したことのある自治体の住民質問制度にしろ、国会の市民評議会制度にしろ、それは住民の意見を尊重し、それを政治に反映すべきだという意思があるから可能になるのだと思います。

 それは、議会制民主主義をより民主的にする基盤になるといえます。しかし日本では官庁や議会において住民を鼻からばかにして、住民の意見を真剣に聞かない傾向が強いし、反対意見の持ち主は共産党党員だといわれてしまうのが現実です。日本において、制度をどこまで民主主義的に実現できるのか。それは、たいへん難しい問題です。

(2024年10月18日、まさお)

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関連サイト:
ドイツ連邦議会の市民評議会のページ(ドイツ語)

 

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