持続可能な社会における成長とは

 社会はこれまで、経済が成長することによって豊かになってきた。その「成長」とは、何なのか。簡単にいえば、前年に比べて経済がどれだけ成長したかだ。その成長の指標になるのは、国内総生産(GDP)だ。GDPが前年比でそれだけ増えたか。それが成長率となる。

 経済成長は、前年比でしか比較されない。それが指数関数的な成長を意味することは、すでに「さよなら減思力」の項で書いたたことがある。指数関数的とは、どういうことを意味するのか。それは、新型コロナの新規感染者数が垂直線上に上昇することを見ればわかると思う。新型コロナの感染者数は、指数関数的に上昇する。

 指数関数的に経済成長を続けるには、前年よりもより多く生産するか、生産効率を上げることでしか、経済成長を続けることはできない。経済成長とともに物価が上がるので、賃金を上げることも考えなければならない。でも経済成長を続けるには、より安い労働力を求めるか、労働者を削減して労働者一人当たりの労働を増やすことでしか、経済は成長しない。

 その結果、労働者はくたくたになるまで働きながらも、いつ解雇されるかわからない状態に置かれる。それでは労働者は、長期的に生活を設計することができない。経済が安い労働力を求めて国外移転すると、国内経済は空洞化する。この状態で、社会は持続可能に発展することはできない。

現代社会では、あちこちで建設ラッシュが続き、市民は駆け足で歩く。ベルリンのSバーン、ワルシャワ通り駅で撮影。

 これが、現代社会の置かれた状況ではないだろうか。それは、経済成長を長期的な時間のスパンではなく、目先でしか見ないからだ。社会が持続可能になるには、成長という概念も持続可能な視点から見なければならない。

 そのためには、成長だけではなく、豊かさとは何か、働くとは何か、自由とは何かなどを、社会を持続可能にする視点から再定義することが必要となる。それは、価値観を変えることも意味すると思う。

 これは、現在の豊かさだけを求める経済から抜け出すことでもある。これまでエネルギー源として有限な化石燃料とウランに依存してきたのは、現在の豊かさだけを求めてきたからだ。これまでは、『現在』が独裁者のように権力を握ってきた。社会と経済に持続可能性を求めるには、現在の豊かさではなく、長期的な時間において豊かさを追求する。

 そのためには、GDPという短期的な経済指標ではなく、社会の持続可能性を示す指標を付け加えなければない。たとえば、財政規律、ベースアップ率、若者の就業率、社会保険制度の充実度、出生率、気候変動の状況、エネルギー自給・消費率、犯罪率、交通事故率、文化普及率、社会の多様性、社会に対する満足度などだ。持続可能な社会では、これらの指標を総合的に見ることが求められる。

 社会の持続可能性から見た指標は、長い時間のスパンから見るものでなければならない。その点で、世代間の公平さを示すものでもある。

 持続可能性が成長において重要度を増すと、社会は単なる高度経済成長社会から成熟社会へと発展する。あくせく働くだけの人生から、時間的に余裕のある人生へと切り替わる。時間的な余裕があると、家族や友人が人生においてより大きな価値を持つ。競争社会において個人だけを優先するのではなく、社会との共生も追求する。

 そうならない限り、社会は持続可能にはならない。

(2021年7月15日、まさお)

関連記事:
新しい経済指標が必要/指数関数的社会への警告(5)

関連サイト:
持続可能な開発目標とは(国連開発計画(UNDP)駐日代表事務局)

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