夫婦別性を認めない日本に見える人権

 日本では、夫婦が別性となることが認められていません。先日も最高裁判所が、夫婦同姓しか認めない法規定は違憲ではないとの判断を示しました。

 ぼく自身、結婚する時に何とかお互いの姓のまま別姓で結婚することができないか、いろいろ可能性を探ってみました。

 ぼくと連れ合いは日本人なので、ドイツで結婚するには、ドイツ法で結婚することも、日本法で結婚することもできました。

 ドイツ法で結婚すれば、別性で結婚するのはまったく問題ありません。そのためには、日本の外務省にいくなどしていろいろ書類を用意しなければなりません。それは、重婚ではないことを証明しなければならないからです。

 ドイツでは、正式に結婚しなくても事実婚として両者で契約を結んでおくこともできます。ただしその場合、夫婦としての税制上の優遇措置を受けることができません。

 ぼくたちは結婚しようがしまいが、どちらでもよかったのです。事実婚契約でもよかったのです。でも、結婚することによる税制上の優遇措置が小さくないので、結婚することを選択しました。

 もう一つ結婚を決断した理由は、どちらかが命に関わる病気になった時のことを考えたからでした。夫婦や家族でないと、患者の病状については何も知らされません。事実婚契約や全権委任状があれば、問題ありません。でもその時は、それをどう作成するのがいいのか、よくわかりませんでした。

 仕方がないので、ぼくたちは日本法で結婚することにしました。

 それに対して、日本法で結婚するのはとても簡単です。結婚届けを提出します。結婚届けに必要な証人二人についてもいいかげんで、結婚届けに署名と捺印(ドイツ人の場合、拇印が必要だったかな)があれば、それで済みます。証人の身元を確認する書類も必要ありません。

 ぼくたちはドイツ人の友人に証人として、内容のわからない日本語の結婚届けにめくらサインをしてもらいました。これについては、いまだに語り草になっています。ドイツではそんなことは、ありえないからです。

 めくらサインされた結婚届けをベルリンの日本領事館に提出すると、「おめでとうございます」といわれ、それでお終いでした。

 それに対して、ドイツで結婚するには、自治体の担当役人の前で、結婚することを誓い、さらに担当役人によって身元確認され、同じく身元確認された証人二人とともに、担当役人の前で署名します。

 今はもうそういうことはしませんが、以前は結婚申請が出されると、自治体はAさんとBさんの結婚に異議のある人はいませんかと告知を出しました。こうして事前に、誰も二人の結婚に異議がないことを確認しなければなりませんでした。

 それに比べると、日本の結婚というのがいかに簡単で、ずさんな手続きかということがわかります。

ぼくはこうして、記念に表札をつくったこともあるが、使ったことがない

 離婚も同じです。

 ドイツの場合、離婚は裁判所が「ドイツ国民の名の下に」、離婚証明書を出してくれない限り、離婚は成立しません。離婚まで申請後、最低一年かかります。それは一つに、離婚者の間に離婚手続きの間にこどもができていないことを確認するためでもあります。

 その間に、財産と定年退職した後の年金の分与などについても決めなければなりません。こどもがある場合は、こどもの養育を誰がするのか、その養育費をどう分担するのかも決めます。

 それに対し、日本では離婚は二人の証人の氏名と捺印の入った離婚届けを提出すれば離婚が成立します。ここでも、証人の身元は確認されません。

 お互いの同意なくして、相手が勝手に離婚届を出すこともできます。それを防ぐため、離婚届不受理申請を出しておくことができます。今でこそ、離婚届不受理申請は一回だせばいいのですが、つい数年前までは、6カ月毎に更新しないと、離婚届不受理申請は無効になりました。

 ベルリンに暮らす小生の友人の日本人女性は、ドイツで日本法によって日本人同士で結婚しました。しかしうまくいかず、ドイツで離婚手続きをはじめていました。そのうち、女性のほうが病気で倒れ、障害者になってしまいます。日本では女性のほうからすでに、離婚届不受理申請が出してありました。それを更新するため、日本のご両親が自治体で本人が病気で直接更新できないので、親が代わりに更新したいと交渉されました。しかし、認められません。本人しかできないということでした。

 まもなくして、日本で離婚が成立してしまいます。離婚届は、男性のほうが、女性の署名を偽造するほか、証人二人の署名も偽造し、三文判を捺印して離婚届が作成されていました。日本ではこのように、離婚届を簡単に偽造できます。離婚届が受理される時も、署名が偽造かどうかの審査されません。当事者と証人の身元も確認されません。偽造離婚届を受理した自治体は、自治体にそうする責任はないといったそうです。

 男性はこどもの親権も自分のものにし、倒れた女性の親権が勝手に奪われていました。こどもの親権の問題については以前書いていますので、それも参照してください(「親権は剥奪できない」)。

 日独の結婚と離婚に対する手続き上の違いは、どこからくるのでしょうか。

 それは、行政が基本的な人権を守ろうとするのか、守ろうとしないのか、それが根本的に違うのだと思います。ドイツで結婚、離婚の手続きが面倒なのは、それぞれの人権を守るために、事務的な手続きと審査があるからです。それが日本では、まったくずさんになっています。人権を守ることが前提となっていません。そういう意識そのものがないのだと思います。

 それと同じことが、夫婦別性の問題にもいえると思います。

 ドイツで夫婦を別姓にするのが面倒でないのは、それを選択する権利がそれぞれ市民にあるとされているからだと思います。それは、それぞれの人権を尊重し、守ることを意味します。それに対して、日本で夫婦別性を認めないのは、夫婦別姓を選択できるようにするのが、人権だという認識がないからです。その選ぶ権利を奪うのが、人権を侵害することになるということがわかっていません。

 これって、人権無視ではないですか。

 結婚と離婚もそうですが、日本の法規は人権を守るために制定されているのではないことになります。となると、日本において法治国家とは何を意味するのでしょうか。国民を統制するだけの法律なら、法治国家であることの基本的な意味がわかっていないといわなければなりません。

(2021年6月28日、まさお)

関連記事:
親権は剥奪できない
姓(セカンドネーム)が先か、名(ファーストネーム)が先か

関連サイト:
選択的夫婦別氏制度(いわゆる選択的夫婦別姓制度)について(法務省)

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