日本のケアマネ制度をドイツに持ってきたい

 日本から一番ドイツに持っていきたいものと聞かれると、ぼくはケアマネージャー制度だと答えたい。それはなぜか。以下の体験からも、わかると思う。

 母は緩和ケア病棟を退院して、自宅で在宅療養することになる。

 退院の前にまず、病院の主治医と地域医療部の担当者との打ち合わせがあった。そこで訪問医候補を決め、病院の地域医療部が訪問医候補に承諾をとるほか、在宅看護チームを選定する。

 それが決まった段階で、病院で病院側の関係者と訪問医、在宅看護チームの代表、母のケアマネージャーと介護機器の納入業者との顔合わせと打ち合わせをして、訪問医と看護チームと契約する。

 これがすべて病院側でアレンジされるので、たいへん助かった。ドイツでも本来は、これだけのことは病院のソーシャルサービス部がやらないといけない。しかしぼくが後見人だった友人の場合、友人が入院していたベルリンの大学病院が最初から、病院では緩和ケアのできる訪問医はみんな手一杯で見つけられないと、はじめから匙を投げられた。インターネット上にベルリンの緩和ケア訪問医のリストがあるから、自分でそこから問い合わせて見つけて欲しいという。

 あなた方は外国人なので、訪問医が手一杯でも、泣き付けば何とかなると思うから、自分で見つけるほうがいいといわれた。

 これは、プールで泳いだこともないのに、いきなり太平洋に出て泳ぎなさいといわれるようなものだった。

 まったく制度や事情の知らない一般市民の素人に、冗談じゃないと思ったが仕方がない。リストで友人の住まいのある地区を担当する緩和ケア訪問医を片っ端から当たってみた。案の定電話しても、どこでも手一杯だといって断られ続けた。

 並行して知人の紹介で、外国人向けホスピスサービスを行っている団体の責任者にコンタクトした。入院中の病院は何もしてくれないので、在宅緩和ケアのために何とか訪問医と看護・介護チームを見つけられないかとお願いしてみた。

 すると、そこからは何とかするとの返事がくる。助かった。数日して、見つかったと連絡がきた。見つかったのは、これまで何度電話で問い合わせても、断られ続けた緩和ケア専門の開業医のところだった。医師が決まると、自動的に担当の看護・介護チームも決まる。

 これで、友人を在宅で緩和ケアできるようになる。友人はようやく、大学病院から退院した。

 それに比べると、日本では母の場合、家族が何もしないでも、何もかもスムーズに進んでいった。介護ベッドなど在宅療養に必要な機器も、母のケアマネージャーと介護機器の納入業者に自宅にきてもらって、自宅の様子を見てもらいながら、必要なものを打ち合わせた。ケアマネさんは母の介護度もわかっているし、介護保険の条件もわかっているから、すぐにどういうサービスが可能で、どれだと介護保険の枠内で利用できるか、すぐに判断してもらえる。手続きもケアマネさんが、介護度の申請から何から何まですべてやってもらえる。何とありがたいことか。

 介護機器業者の担当者も、カタログを見ながら、必要となる機器について適切にアドバイスしてくれる。そうして決まった介護機器は、翌日に納入された。

看護ベッドとポータブルトイレの入った母の部屋

 ベルリンの友人の場合は、まったく異なった。介護機器について何も相談するところもなく、必要となるものについて訪問医から指示書をもらい、それをベースにして納入業者に電話で注文して業者のいうものを注文するだけだった。誰もアドバイスしてくれない。母の時とは大違いだった。

 医師の指示書があれば、すべて介護保険が負担してくれるといわれた。しかし現実は、そうではなかった。それは、後でわかった。

 さらにベルリンでは、機器が納入されるまで数週間も待たされる。何という違いなのか。

 ドイツでは、顧客サービスはどの分野でもそうだが、まったくなっていない。在宅ケアをする患者には、担当のソーシャルワーカーもつくが、ソーシャルワーカーは書類の手続きなどのサポートくらいしかしてくれない。患者に合わせてどういう看護・介護サービスが必要で、どういうサービスが可能なのかは、自分で調べ、自分から問い合わせないと、何も進まない。その手続きも自分でしないといけい。手続きはどれもたいへん複雑なので、それなりの覚悟をしてはじめないと、その複雑さに負けて何もできなくなる。

 それは、外国人だからそうなのではない。ドイツ人であっても同じと聞いた。とにかくサービスを受ける側が、しっかり情報をもって、これがほしいとわかっていないと、先に進めない。そうしないと、誰も手助けしてくれない。それは、まったく経験のない一般市民には無理だ。

 この点で、日本とドイツでは雲泥の差がある。日本のケアマネ制度は本当にすばらしい。ドイツに輸入して、真似してもらいたい。

2023年1月19日、まさお

関連記事:
緩和ケア病棟か、在宅ケアか
緩和ケア病棟はホスピスではない
コロナ禍のために緩和ケアに制限があっていいのか

関連サイト:
介護支援専門員(ケアマネージャー)とは?|介護求人パーク

この記事をシェア、ブックマークする

 Leave a Comment

All input areas are required. Your e-mail address will not be made public.

Please check the contents before sending.