電気自動車は公害車だというウソ

 ドイツでは、電気自動車がなかなか普及しません。でもドイツが、国家戦略として電気自動車を普及しようとしているのは明らかです。ガソリン車やディーゼル車など、化石燃料を燃料とする自動車の製造、販売をストップする時期が規定されるのは、そう遠くはないと思います。

 それに伴い、電気自動車を批判、攻撃する論調も多くなっています。電気自動車がガソリン車やディーゼル車よりも二酸化炭素を多く排出する公害車だという批判さえ出ています。

 保守系のフランクフルター・アルゲマイネ紙がよくこの論理を使って、反電気自動車の記事を多く掲載しています。

 さらに今年(2019年)4月には、ドイツの5大経済研究所の一つであるミュンヒェンのifo経済研究所が、電気自動車の二酸化炭素排出量がディーゼル車よりも多いとする論文を発表しました。論文では、権威ある経済学者であるシン前ifo経済研究所所長を中心とした研究チームが、電気自動車の製造時と運行時の二酸化炭素の排出量を比較しました。

 ifo経済研究所は、保守系、経済界寄りの経済研究所です。でもここまでいいかげんな論文を出してしまうと、電気自動車に乗り遅れたドイツの自動車業界に買われてしまったのかと疑わざるを得ません。

 電気自動車批判の論理はだいたい同じなので、以下にその特徴を挙げておきます。

発電による二酸化炭素の排出:
 電気自動車は、将来再生可能エネルギーで発電された電気を燃料として使うために今から普及しようとしているものです。でも電気自動車の批判では、それを現在発電された電気で走るという前提で、二酸化炭素の排出量が算出されています。

 ドイツではまだ、発電における火力発電の割合が大きいので、現在をベースにすると、電気自動車の走行では電気の発電時に二酸化炭素を排出しています。

 ここでは、現在電気自動車で走る場合、多くのユーザが再生可能エネルギーで発電された電気を使用してていることも無視されています。

 公共交通においても、ドイツでは電気バスを運行する場合、そのために再生可能エネルギーで発電されたグリーン電力を購入しています。

製造時の二酸化炭素の排出:
 電気自動車には、蓄電池が必要です。その蓄電池を製造するのに、多くの二酸化炭素が排出されます。特にifo経済研究所の論文では、蓄電池製造による二酸化炭素の排出が自動車製造においてその分だけ余計に二酸化炭素を排出する要因になるとしか想定されていません。

 その結果、その他自動車を製造する時に排出される二酸化炭素の排出量が比較されていません。

 しかし電気自動車では、部品数が従来のガソリン車やディーゼル車に比べて約半分になることがわかっています。たとえば、電気自動車にはギアが必要ありません。その分、電気自動車では製造時に二酸化炭素の排出が減ります。

 この点が、電気自動車において考慮されていません。

自動車の走行距離:
 電気自動車では、充電に時間がかかるので、ガソリン車やディーゼル車ほどの長い距離を走行することができなくなる可能性があります。それを考えると、電気自動車の総走行距離は短くなります。

 でもこの点は、電気自動車において考慮されていません。

 また電気自動車では今後、シェアして利用されることが予想されます。その結果、電気自動車化で自動車の総台数が減ることが予想されます。

 二酸化炭素の排出を比較するなら、この点も考慮しなければなりません。

電気自動車の利点:
 電気自動車では、駆動用の電動機(モータ)を発電機として作動させることができます。それによって、走行の運動エネルギーを電気エネルギーに変換してブレーキをかけることができます(電気ブレーキ)。

 電気自動車では、その時に変換された電気を蓄電池で充電することができます。

 これは、電車ではもう標準になっている技術です。電気自動車でも、この技術が利用されています。

 ですから電気自動車は、発電された電気だけによって走行しているわけではありません。電気自動車の走行中にも、蓄電池を充電しています。

 この点が、電気自動車を批判する論文では考慮されていません。

 前述したifo経済研究所の論文では、比較したディーゼル車の馬力が電気自動車の馬力の半分近くだったにも関わらず、それさえもまったく考慮されていませんでした。
 
 ドイツの権威ある経済研究所がここまでフェイク論文を出すとは、まったく意外でした。ifo経済研究所の論文だけに、ドイツのメディアにおいて大きな注目を集めました。

 ただ、ifo経済研究所がとても保守的、経済界寄りなことを考えると、そうかと納得できないこともありません。

 ドイツは自動車産業国です。その自動車産業国において、従来のガソリン車やディーゼル車が電気自動車に代わってしまうと、たくさんの部品が不要になります。その結果、自動車業界でたくさんの失業者が出てしまいます。

 ドイツでは、それをまだはっきりと認識できない状態が続いています。

 そのあやふやな状況を利用して、フランクフルター・アルゲマイネ紙やifo経済研究所が権威のある保守派のオピニオンリーダーとして、既存の自動車業界を守るために情報操作して、民衆を反電気自動車に扇動しているのではないか。

 そう考えても、不思議ではありません。騙されないように気をつけなければなりません。

(2019年5月26日、まさお)

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