風車を解体する資金はどこに?

 ドイツでは1991年から、再生可能エネルギーを推進するため、再エネで発電された電力を固定価格で買い取る制度(FIT制度)が導入されています。この1991年のFIT制度によって、風力発電施設がたくさん設置されました。

 ただFIT制度は、2000年の再生可能エネルギー法の下で本格的に始動し、再エネによる発電施設が急激に増大しています。

 FIT制度では、発電された電力の買取価格が発電施設の稼働後20年間、固定されます。そのため、20年を過ぎると、電力の買取価格は卸市場での取引に任せるか、直接電力の取引契約を結んで価格を決めるしかありません。

 その場合、電力の取引価格は、FIT制度に基づく固定価格よりもかなり低くなります。

 そのためこれまでは、FIT制度によって保護される20年が経つと、発電施設を取り壊して新しい施設を建設するのが当たり前になっていました。そうすれば、FIT制度の下で再び電力を割高に買い取ってもらえます。

 風力発電の場合、「リパワリング」といって既存施設を改造して出力をアップさせれば、またFIT制度の下に入ることができます。

 ぼくが取材したところでは、多くの場合、20年経つと風車を解体して、解体した風車を東欧諸国などに売り払っていました。その後、跡地に新しい風車を設置して、再びFIT制度の恩恵を受けます。

ドイツ北西部パーダーボーン近郊の風力発電パークでは、いろいろな世代の風車が立ち並び、風車の博物館のようになっている

 これに対して、ぼくはとても疑問を持ちました。

 再エネによる発電量を増やすことを考えると、20年後も既存施設で発電を続け、新しい発電施設を別の土地に設置して増やしたほうが早く再エネが増えるからです。

 ただ経済性を考えると、できるだけ長くFIT制度に依存したほうがいいのはいうまでもありません。

 しかし現在、風力発電においては、FIT制度による電力の買取価格が卸市場での取引価格とほとんど変わらないくらいに低くなっています。さらに、風力発電施設の設置やリパワリングに対しても、反対運動が激しくなっています。こうして、新しい風車に投資して建設する条件が、かなり厳しくなっています。

 それに平行して、FIT制度の下ですでに20年間発電した風車が、益々増えてきています。

 その結果、古い風車を解体して取り壊すための資金不足も明らかになってきました。

 これまでのように、古い風車を売却して、FIT制度の下で再び新しい風車を設置できれば、資金の流れが循環します。古い風車を解体する資金を調達するのは、それほど問題ではありません。

 それに対して、新しい風車を設置できないとなると、古い風車を解体するコストだけが発生し、その資金をどう調達するかが問題になります。

 本来、発電施設は老朽化するものなので、いずれ解体することを考えて、そのための資金を積立金や引当金の形で蓄えておかなければなりません。

 しかし、これが法的に規定されていません。そのため、その準備をしていない再エネ発電事業者が多いと見られます。目先の利益ばかりを追求してきたツケが、今出てきたといわなければなりません。

 この問題は、洋上風力発電において将来もっと深刻になるので、すでに本サイトの記事「洋上風力発電の課題(7):発電施設の寿命」で指摘したことがあります。

 再エネを持続可能に運用していくには、この問題に対して何らかの対策を講じなければなりません。

2019年11月10日、まさお

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