再エネプレミアがあるものの

 前々回、風力発電産業が存在危機にさらされている背景について述べました。

 確かに、固定価格買取制度(FIT制度)に入札制度が導入されて、再生可能エネルギーで発電された電気の買取価格が暴落しています。

 ただFIT制度は、入札制度以外にも、開始当時に比べるとかなり改正されています。

 現在、FIT制度ではある一定の規模より大きい発電施設を対象にして、発電事業者が電気を小売事業者に直接売電したり、卸市場で直接取引きすることを求めています。そこで、得られた取引価格が入札で決まった電気の買取価格よりも下回ると、FIT制度の入札で決まった買取価格が保障されます。

 また、再エネで発電された電気に市場プレミアを上乗せする制度も導入されています。入札で決まった買取価格には、このプレミアが加算されます。

 これは元々、発電事業者がFIT制度の枠内で、再エネで発電された電気を固定価格ではなく、直接取引きする時に、再エネ電気に付加価値をつけるために導入されたものです。それによって、発電事業者が競争から低価格で電気を販売しても、再エネに対してそれ相応の価値を確保できるようにしたものだといえます。

 現在、このプレミア制度はFIT制度において重要な位置を占めているといっていいと思います。

 ただぼくは、このプレミア制度があっても、現在の電力の市場動向では、特に風力発電に投資する魅力が失われているのではないかと思えてなりません。

 この問題を、ドイツ5大経済研究所の一つであるベルリン・ドイツ経済研究所のエネルギー副部長のシルさんにぶつけてみました。

 シルさんは、「プレミア制度があるから、それほど心配ないのではないか」という見方をしていました。

 ただ問題は、再エネの割合が大幅に増え、ほぼ100%に近くなった時です。そうなると、再エネという付加価値はありません。その時、どうするのか。

 その問題については、シルさんも「発電容量を確保するための新しいメカニズムが必要になる」といっていました。

 これは、ぼくが前々回「発電施設を建設する投資資金を集めるためのメカニズムも必要になる」と書いたのと変わりません。ただ、それが「容量市場」になるのかどうかになると、シルさんは「それが、必ずしも容量市場である必要はない」といっていました。

 ベルリン・ドイツ経済研究所は、ドイツ政府が脱原発が完了するのに向けて、発電容量を確保するために容量市場の導入を検討していた時、容量市場に反対した経済研究所です。それは、今必要な容量は過渡的なものなので、それを市場として一旦固定させてしまうと、それを止めることができなくなるからです。

 そのため同研究所は、過渡的に必要となる発電容量に対してだけ、ガス発電所などを「戦略的リザーブ」として確保して、そのために資金を集めることを提案しました。

 ドイツ政府も、「戦略的リザーブ」を導入することになりました。

 それに対して日本政府は、2020年度から電力市場に平行して容量市場を導入する予定です。しかしこうしたドイツの議論を、日本政府はどう思うのでしょうか。

 日本政府は、再エネの将来も考え、先見の明を持って容量市場を導入するのでしょうか。

2019年12月08日、まさお

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関連サイト:
ドイツ風力発電協会

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