これから何に投資するのか(5)

農業と市民

 ぼくはこれまで、農業をグローバル化と工業化から脱皮させ、地産地消化させるべきだと書いてきました。

 その一つの手段が、有機農業を増やことです。有機農業の基盤は、地元でつくり、それを地元で食べることです。

 ただドイツでは、有機農業が思ったように伸びません。ドイツでは1990年代終わりに社民党と緑の党の中道左派政権が成立すると、有機農業の割合を全体でまず20%に引き上げようとしました。でもそれは、次に中道右派政権に政権交代することで頓挫してしまいました。

 それにも関わらず都市部では、有機食品に対する需要が確実に伸びています。食品の安全に対する消費者の意識が高まっているからだと思います。ぼくの住むベルリンでも、有機食品に特化したスーパーマーケットがかなり増えてきました。

ベルリンのある有機食品専門スーパーマーケット。ここは、組合形態となっている。

 その結果、有機食品であっても地産地消の原則から離れて、遠い国外から輸入される有機食品が増えています。それとともに、食品を輸送するためのエネルギー消費量も増えます。工業国の利益のため、途上国では自然が破壊され、労働者が低賃金、悪い労働条件で働かされていることも心配されます。

 もちろん、自分の住んでいるところでは栽培できない農作物もたくさんあります。たとえば、バナナや、コーヒー、紅茶などがそうです。そういった農作物に関しては、有機食品に特化したスーパーでは、「フェアトレード」食品が増えてきました。

 でもぼくは、それだけではまだ不十分だと思います。

 ぼくは、これからの農業は地産地消化と有機農業だけではなく、農業と都市の市民をどう結びつけるのかが重要な課題になると思います。食品は、都市においてたくさん消費されます。それを消費するのは、都市の市民です。都市の消費者が、もっと農業に関心を持ち、農業の価値を認識しなければなりません。ぼくたちは、食品なくして生きていくことができません。その食品を生産しているのが農業です。

 農業の重要さが都市の市民にも再評価され、都市の消費者が農業と結びつくことが必要だと思います。

 たとえばドイツには、「連帯農業」という取り組みがあります。連帯農業では、地元の農業を支援するために、都市に生活する市民が農業にかかるコストを共同で負担します。生産者と都市の消費者が共同で農業を行う一つの試みといえます。都市の消費者が実際に農地にいって、農作物の収穫を手伝ったりします。草刈なども共同で行います。収穫された農産物は、連帯農業に参加する消費者にも分配されます。連帯農業で得られた利益も、生産者と消費者で共同で分配します。

 こうした取り組みでは、スーパーで売れ残り食品を無駄に捨ててしまうような問題は起こりません。

 ベルリンに住むぼくの知人に、こうしたグループに参加している女性がいます。週末になると、農作業にいったりしています。もちろん必要な時だけいくので、せいぜい年に数回だけです。

 グループで分配された農作物を、ぼくたちにも分けてもらえることがあります。たくさんあって食べきれないからです。その農作物のおいしさは、もう格別です。太陽エネルギーをたくさん吸収して、自然そのものの味がします。有機食品スーパーでも、これだけの質のいいものは買えません。

 こうして、人材不足と資金不足に苦しむ農業において生産者と消費者を結びつけます。その結果、農作物の質が上がり、高価値な農作物が生産されます。農業の価値が再認識され、農業がより持続可能になって環境にもやさしくなります。

2020年6月07日、まさお

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