まず自分の生活からカーボンニュートラル化しようか

 ドイツでは、再生可能エネルギーで発電された電力の割合は発電において、ほぼ半分に達しました。二酸化炭素の排出量は1990年比で、約40%削減しています。

 ドイツは発電における再エネの割合を2030年までに80%に引き上げ、2045年までに二酸化炭素の排出量が実質ゼロとなるカーボンニュートラルを達成することを目標にしています。

 ドイツのこれまでの実績は、主に発電と産業活動において達成されたものです。民生(家庭)部門といわれ、最も一般市民の生活と係わる分野では、ほとんど手がつけられてきませんでした。

 それは一つに、一般市民の生活を法的に規制するのが簡単ではないからです。さらに一般市民の生活にメスを入れると、市民から反発が出る可能性が大きいからです。

 しかし一般市民の生活にもメスを入れて規制しなければ、再エネへのエネルギー転換を実現して、カーボンニュートラルを達成することはできません。

 ドイツはここにきてようやく、一般市民の生活も規制することになります。いや、そうしなければ目標を達成できなくなりました。その最初の試みが、家庭用の暖房に使う灯油とガス、車の燃料であるガソリンとディーゼルに炭素税を課税したことです。

 もちろんそれだけでは、まったく不十分です。そのためドイツ政府の政策案では、家庭用の暖房を規制し、2024年から新しい暖房機を設置する場合、灯油か天然ガスを燃料とするボイラーを選択できなくします。自動車もEUでは、2035年からガソリン車とディーゼル車を販売できなくなる計画です。

 EUはさらに、住宅の省エネ化をこれまでよりもより厳格に規定し、規定以下の住宅に対して改造義務を課すことを計画しています。

 これらの施策は、カーボンニュートラルを実現するには避けて通ることができません。

 しかしドイツでは、これらの施策に対して、政治やメディア、経済、市民社会からたいへん大きな反発と批判が起こっています。

 それに対し、たとえばベルリンでは今日2023年3月26日、市民のイニシアチブで2030年までにベルリンをカーボンニュートラル化することを求める住民投票が行われています。

 2030年まで、後8年しかありません。その短い期間に人口400万人を超える大都市ベルリンにおいて、市内を走る車をすべて電気自動車化しなければなりません。住宅の屋根のほとんどにソーラーパネルを設置したり、ガス暖房をすべてヒートポンプなどに取り換えなければなりません。

 それだけやっても、大都市のカーボンニュートラル化はまだ実現できません。それを考えると、とてもラディカルな要求です。

 この二つの相反する社会の現象は、何を意味するのでしょうか。

 カーボンニュートラル化しないといけないのはわかっている。できるだけ早く実現しなければならない。でもそれを実現するための具体的な施策になると、考えたことはない。イメージできない。さらにそれによって、自分の生活に影響があると困る。そういうことだと思います。

 この状況は、再エネへのエネルギー転換を進めないといけないのはわかる、でも自宅の近くに風力発電施設ができるのは困るという現在のドイツの風力発電の問題と、それほど変わらないと思います。

 一般市民の生活にメスが入ると、こうして市民の反発が起こるということです。

 ドイツ社会では、再エネへのエネルギー転換を実現し、カーボンニュートラル化する必要があるのは結構、認識されています。でもいざそれを具体的に実現するとなると、社会がどう変わっていくのか、自分の生活がどう変わっていくのかが、イメージされていません。

 この状況は、本来もっと勉強してその変化を自覚していなければならないはずの政治(特に保守政党、右翼、労組も含め左翼)やメディアにおいても、同じことがいえます。政党はさらに、市民に影響が出ることで票を落としてしまうことを恐れます。

 産業革命後、化石燃料を基盤とした社会が数世紀にも渡って続いてきました。それが、化石燃料に依存しない新しい社会に変わります。しかし頭の中では、化石燃料を使う社会と生活がそのまま続いています。エネルギー転換とカーボンニュートラル化しなければならないとう漠然としたイメージしかありません。

 化石燃料をベースした社会の古い考え方が頭に残っていては、エネルギー転換とカーボンニュートラル化で変わる社会についていけるはずがありません。社会の変化が必要なことも認識できません。

 これまでの改革は、発電と産業を対象にしてきました。そのレベルでは、一般市民の意識改革は必要ありませんでした。しかしドイツではここにきて、どうしても一般市民の意識を改革して生活も変えなければならなくなってきました。カーボンニュートラルの目標を達成するには、当然のことです。

 ここでドイツが直面している問題は、産業革命と化石燃料に依存してきた古い考え方です。それが、エネルギー転換とカーボンニュートラルを実現する上で具体的に必要な施策を妨害する厚い壁になっています。

 ぼくはこれまで、再エネへのエネルギー転換は、産業革命からの脱皮であり、産業革命で発明された蒸気機関(火力発電と原子力発電)と内燃機関(車)の時代が終わることを意味するといってきました。

 その結果、ぼくたちの生活はどう変わっていくのか。自分なりにそれを、できるだけ具体的にイメージしてもらおうとして記事を書いてきました。しかしそれとて、抽象的になってしまうのは、避けることができません。

 そこでまず、自分の生活をカーボンニュートラル化することを具体的に考えてみてはどうかと思います。

 たとえばわが家では、1997年から再エネ電力を供給してもらっています。といっても当時は、供給された電力がすべて再エネ電力だったわけではありません。でも今はすでに、年間全体で供給される電力のすべてが再エネ電力になっています。

 わが家では、給湯を電気湯沸器で行い、調理も電気なので、給湯と調理は再エネ化されています。暖房は、地域暖房熱が供給されています。これは、個人ではどうしようもありません。ただドイツ政府の政策では、地域暖房熱源は2024年から最低65%が再エネ化されなければならないことになっています。

 ぼくは仕事カ柄、パソコンで検索したり、メールでやり取りする時間が長くなっています。自宅で使う電気は再エネ電力ですが、問題はプロバイダーはどうかです。

 検索で使っているメインの検索エンジンは、グリーン検索エンジンといわれるEcosiaです。メールアドレスはいくつも持っていますが、メインで使っているメールのプロバイダーは、その運用に再エネ電力を使っています。

 ぼくはもう、自家用車を持っていません。公共交通を利用してベルリン市内を移動するか、徒歩で移動しています。ベルリン市内の公共交通では、地下鉄とトラムがすでに100%再エネ電力を使って運行されています。バスも電気バスが増えており、2030年までにすべて電気バス化されます。

 ドイツ国内での移動は、電車で移動します。飛行機はほとんど利用しなくなりました。ドイツ鉄道の長距離列車はすでに、100%再エネ電力化されています。中近距離鉄道だけは、まだ完全には再エネ電力になっていません。ベルリン市内を走る都市鉄道であるSバーンもまだ、再エネ電力化されていません。

 こうして見ると、再エネ電力を使うことによって自宅の生活と移動がかなりカーボンニュートラル化できることがわかります。

 その他にも商品を買う時に、どの商品を買うかをカーボンニュートラルの視点から選択することもできます。それについては、サイトの『エネルギー選択宣言』に書いてあります。参照してみてください。

 こうして自分の生活で検証してみると、自分の生活において二酸化炭素を排出して生活している部分がはっきりします。もちろん自分ではどうしようもない部分もありますが、考えて工夫すれば、どうすれば二酸化炭素を出さないで生活できるかもわかってくると思います。

 それとともに、石炭や石油など化石燃料を使わないで生活するイメージが具体化し、自分の生活の変化も実感できます。

 ぼくはドイツのベルリンで暮らしているから、二酸化炭素を排出しない生活についていろいろ工夫できるのだと思います。日本では、ここまで実行するのは不可能だと思います。

 日本では、カーボンニュートラルを目指す枠組みとしてGX (グリーントランスフォーメーション)推進法案が国会を通過する見通しです。しかし日本政府の政策では、一般市民の生活がどうなるかまではまったく考えられていません。市民が意識改革しなければならないことも配慮されていないどころか、そこまで考えが行き届いていないといわなければなりません。

 しかし日本でもエネルギー転換とカーボンニュートラルは、市民の意識改革なくしては実現することができません。いずれ化石燃料社会からの市民の古い考え方が、大きな障害になると思います。

 それでは、カーボンニュートラルは実現できません。政府に頼らず、自分で自分の生活のカーボンニュートラル度をチェックし、変えることのできるところは変えてみてはどうでしょうか。二酸化炭素のない生活とはどういうものなのか、その一部を実体験してほしいと思います。

 実践してみると、なんだこんなものかと思えると思います。

2023年3月26日、まさお

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関連サイト:
ベルリンの都市交通公社(ドイツ語)
「エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する基本方針」が閣議決定されました(経済産業省)

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