ドイツのエネルギー政策は矛盾だらけ

 ベルリンのインヴァリーデン公園は、ドイツの若者たちの環境団体フライデーズ・フォー・フューチャーの主戦場だ。フライデーズ・フォー・フューチャーのデモ集会は毎回、この公園ではじまる。公園が、気候変動対策において最も重要なドイツ経済エネルギー省とドイツ交通省の間にあるからだ。

 先日5月21日、そのインヴァリーデン公園にある池が緑色に着色された。ベルリンだけでなく、その他の大都市でも池が緑色になったという。ぼくは出遅れて午後になってからインヴァリーデン公園にいったが、池の水はまだ緑色のままだった。朝だと、もっと緑色が濃かったはずだ。

写真は、左上から池奥に見える建物がドイツ経済エネルギー省、上真ん中が緑色に染まったインヴァリーデン公園の池、右上の写真の池奥に見えるのがドイツ交通省。下の写真は、緑色に染まった池の水

 環境運動の過激派グループが、ウラニンという蛍光塗料を池に流したのだった。現政権の経済省のエネルギー政策がガスに依存し、再生可能エネルギーへのエネルギー転換にブレーキをかけるどころか、これまで進んできたエネルギー転換を破壊してしまいそうな勢いだからだ。

 化石燃料を中心とした70年、80年代の政策に戻ろうとしているといってもいい。緑色は政府の政策に、抗議するためのものだった。

 政府の気候保護政策をモニタリングして、政府の第三者機関として進捗状況を評価するために設置された気候問題専門家協議会は、現政権の政策では2030年に設定された二酸化炭素など温室効果ガスの削減目標さえ達成できないとした。2045年までの脱炭素化を目指す政府の目標ももちろん達成できないと査定している。しかし現政権の政策はその評価を無視するどころか、これまでに策定された政府の気候変動対策目標にもブレーキをかけようとしている。

 ドイツは欧州連合(EU)に対して、二酸化炭素などの温室効果ガスを2030年までに1990年比で65%削減することを約束している。それが守れないと、ドイツはEUに対して莫大な額の罰金を支払わなくてはならない。

 ドイツ政府は財政難に苦しみながらも、鉄道網や送電網などのインフラを整備するほか、デジタル化を加速させるほか、防衛費を大幅に増額するために莫大な資金を必要としている。その資金を調達するため、特別資産として1000億ユーロ(約190兆円弱)に及ぶ莫大な借金をした。さらに社会の高齢化に伴って歳出を抑えるため、社会福祉政策や年金政策、保健政策にメスを入れようとしている、しかし、それさえもなかなか進ままい。

 それに加えて気候変動問題で多額の違約金まで支払うとなると、ドイツの財政は破綻しかねない。

 ドイツは現在、技術的に国際競争力を失ってきている。ものづくりの国ではなくなってしまう崖っぷちに立たされているといってもいい。しかしそのための改革が、内容的に見ると化石燃料への依存を維持、拡大させ、できるだけ何も変えたくないという政策になっている。本当にそれが改革なのか。矛盾もいいところだ。何を考えているのかといいたくなる。

 何も変えないのが改革なら、そんなにたやすいことはない。それでどうやって、歳出を抑えて国際競争力を強化しようというのか。将来ビジョンがまったく見えない。それが、現メルツ政権の政策であり、その旗振り役がライヒ経済大臣のエネルギー政策だといっていい。

 経済大臣は経済界のロビイストとは頻繁に会っても、環境団体や労働組合などとはまったく会おうとしない。社会の多様な意見に耳を傾けようとしないのだ。目先の利益を求めるだけの経済界の手先になっているといってもいい。エネルギー関連法案も、経済界が下書きしているとさえいわれている。

 エネルギー政策に関しての発言についていえば、メルツ首相の発言はいつも、保守・右派の大衆紙ビルト紙の記事を清書したような感じだ。ライヒ経済大臣の発言は古い考えのままの経済界の主張と変わらないどころか、時代を遡りさせたいとする極右政党AfDの後を追っかけているかのようだ。

 それに対して、再エネ化によるエネルギー転換で構造改革の必要性を認識している再エネ関連業界や持続可能な経済を求める企業は反発している。再エネ化を加速させたいのは地方の自治体と州であり、国の現在のエネルギー政策に真っ向から対立している。

 この問題で州と国が対話する会議も、ライヒ大臣が病欠し、代理で出席するはずの政務次官もオンラインで短時間出席しただけというお粗末ぶりだった。異なる意見には耳を傾けないという方針を徹底しているといえる。

 ぼくが以前取材したことのあるエネルギー政策、環境政策の高官は、環境問題で政策を立案するには事前に社会のあらゆる意見を聞いて調整するのが政策立案のいろはだといっていた。しかし、今の経済大臣のやり方はそれとはまったく逆。それに対しては経済省内でも大臣に反発があり、法案を事前にリークさせて社会の反発を煽っているように見える。大臣が経済省を舵取りできていないということでもある。

 ぼくは経済大臣にライヒ氏(女性)が指名されると知った時、これはたいへんだと思ったが、実際には想像以上に悲惨な状況になっている。ドイツはここまで再エネによるエネルギー転換を進めてきたのだから、ぼくはドイツだけはそのまま進んでエネルギー転換を実現すると信じてきた。しかし現政権になってからは、ドイツのエネルギー転換に対するぼくの信頼はもうかなりガタガタに揺らいでいる。

 しかし、そうもいっておれない。自治体や州には国の政策を無視して独自に再エネ化を進める動きがある。それだけに、それら再エネ推進派に貫徹してもらうしかない。市民も再エネ化を支援するため、自分の生活において独自に再エネ化を実現していくしかない。

 再エネ化は地方から小さな規模で進めて再エネ化地域を拡大し、大都市の再エネ化へと進むべきだ。ドイツの地方には再エネ化によって豊かになっている自治体が増えているだけに、その活動がさらに全国に拡大し、何とか現政権の悲惨なエネルギー政策に耐えて乗り切るしかない。

2026年5月25日、まさお

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関連サイト:
ドイツ経済エネルギー省公式サイト(ドイツ語)

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