欧州議会選挙におけるドイツ緑の党の躍進を読む

 (2019年)5月26日に行われた欧州議会選挙において、ドイツの緑の党は、ドイツ全国で行われた選挙でははじめて得票率20%を超える20.5%(前回2014年比+9.8%)を獲得。ドイツにおいて第2党となりました。

 ドイツでは今、緑の党が環境問題を前面に打ち出したモダンな選挙戦で、若者票を集めたのが注目されています。実際、18歳から24歳までの最も若い有権者層において、緑の党はその34%の票を獲得しました。

 それに対して、国政与党のキリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)と社民党(SPD)は、得票率が28.9%(前回2014年比-6.4%)と15.8%(前回2014年比-11.5%)。大敗した形になりました。18歳から24歳までの有権者層において、CDU/CSUは12%、SPDは8%しか票を獲得していません。

 ドイツメディアでは、若者を引き付ける緑の党、時代遅れで高齢者化した国政与党というレッテルが貼られています。

 投票日直前、ドイツの人気ユーチューバーが政権与党と右翼政党AfDには投票しないよう若者に呼びかけました。それに対して、CDUの党首が選挙に影響を与えるネット上の発言を規制する必要があると発言。その結果、報道の自由を制限するのかと、党首により批判が集中します。ネット社会における既成政党の時代遅れ感がよりはっきりしました。

 今回の選挙において、有権者の注目が地球温暖化問題に集まったのはいうまでもありません。ドイツでは毎週金曜日、児童生徒や学生が早急な温暖化対策を求めてデモをしています(Fridays for Future)。それが、緑の党にとって追い風になったのは確かだと思います。

 でもそれだけでは、今回の緑の党の躍進はなかったと思います。

 緑の党は元々、若者において大きな支持層を持っています。また、インテリや裕福な有権者が、緑の党の最も典型的な支持層といっていいと思います。若者層が少なく、高学歴層や高所得者層も少ないドイツ東部では支持率が伸びません。

 Fridays for Futureのデモを見ても、参加する若者はほとんどがドイツ人。移民はごく少数です。こどもたちの様子からしても、成績のいい生徒たちという感じがします。

 Fridays for Futureのデモが、ドイツの環境団体や緑の党の支援を受けています。その意味でも、環境団体や緑の党の支持者を反映したデモだといえると思います。

 ただFridays for Futureにおいて、デモの開始当初に比べ、ちょっとした変化が起こっています。

 それは、デモにおじちゃんやおばあちゃん、さらには父兄の参加が増えていることです。Parents for Futureという父兄のネットワークもできました。

 若い世代のために、大人も動かないといけないと思う市民が増えてきたのです。自分のこどもや孫の将来のために、今大人も動かないと、次の世代に未来はない。そう思って若者のデモを支援する大人の層が出てきました。

 今回の欧州議会選挙を見ても、緑の党は25歳から59歳までの層で、25%近くの支持を得ています。60歳から69歳までの層でも、18%得票しました。

 ぼくは、緑の党躍進の秘密がここにあると思います。

 正直いって、Fridays for Futureで主張されていることは、若者たちが主張するほど簡単に実現できることではありません。

 ドイツは、2038年までに脱石炭を実現することを政治決定しています。でもそれとて、石炭産業に依存する地域の構造改革を行わなければならないなど、問題は山積みです。

 そしてこれは、単に石炭産業に依存する一部地域の問題ではなく、ドイツ社会全体の問題です。社会全体で解決策を見つけなければなりません。

 そのためには、底辺を広げて問題を解決していくことがとても大切です。それが、脱石炭の犠牲になる市民と、早急な温暖化対策を求める市民の間の溝を埋めることにもなります。

 右翼政党のAfDは、反緑の党を前面に打ち出し、温暖化対策に猛反対する立場です。でもそれでは、社会を二分させるだけです。温暖化問題をめぐって、社会が分断されてはなりません。

 ドイツ東部の石炭産業に依存する地域では、AfDが第1党になっています。でも欧州議会選挙では、緑の党がドイツ東部でも得票率を伸ばすほか、中高年層でも得票率を伸ばしています。

 これは、温暖化問題に関心を持つ層が次第に底辺に広がろうとしている兆候だといえると思います。

 こうした動きを、さらに大きくしていかなければなりません。

(2019年5月31日、まさお)

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