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ドイツの新型コロナデータの透明性と指標

 新型コロナのようにパンデミックになると、いかに早く、正確に感染状況を把握するかがとても大切になります。ウイルスには、症状が現れるまでの潜伏期があります。症状が出てから検査をして感染者を把握していては、手元にある感染の状況データは、すでに1週間以上も前の感染実態しか示していないことになります。

 それで対策を講じていては、往々にして手遅れです。毎日最新状況を把握して、できるだけ早く対策を講じていくことが大切です。そのためには、それに対応できるだけの組織とシステムがなければなりません。

 それは、各国でまちまちです。各国で検査状況も違うので、各国のデータを比較するのは、目安にしかなりません。死亡者数に関しても、感染の有無を確認するために死亡後も検査をするかしないかで、死亡者数と致死率に大きな違いがでます。その方法も各国で違うので、特に致死率を比較するには、死亡者の感染を確認する手法がほぼ同じ国と比較しない限り、意味がありません。

 死亡者数では、国によっては情報が隠蔽されている可能性もあります。

 ドイツの感染防止対策と感染状況のデータの把握は、すべて2001年はじめに施行した「感染防止法」をベースに行われます。それ以前もチフスや結核など、感染症を防止するための法規がありました。しかし、エイズやBSEが流行したことを機に、感染症対策を一つにまとめる必要性が出てきました。さらにEU域内でも、感染症対策とデータの把握を統一する機運が高まりました。

 そうして、感染防止対策の法的基盤が感染防止法にまとめられました。

 こうしてできたのが、ドイツの感染防止法です。同法は、緊急時には基本的人権を制限することも認めています。ただ連邦制のドイツでは、実際に同法をベースに感染防止対策を決定して、実施、監視するのは州になります。

 同時に、国全体の感染症予防と関連データの把握と開示が、政府の研究機関であるロベルト・コッホ研究所に一括してまとめられました。

 新型コロナでは、各地域の保健所は翌日までに感染統計データを州の管轄官庁に電子的に通知します。そのデータは州毎にまとめられ、さらにロベルト・コッホ研究所に電子的に通知されます。それをロベルト・コッホ研究所がまとめ、データを毎日更新します。前日データが毎日0時時点のデータとして、午前8時すぎにネットで公開されます。

 ロベルト・コッホ研究所はさらに、新型コロナ状況の日報をサイトで公開し、毎日更新しています。新型コロナ問題が発生すると、毎日記者会見も行ってきました。会見は、ライブストリーミングで公開されました。現在記者会見は、必要な時だけに行われます。

 公式に公開されるデータは現在、ドイツ全体と各州の全感染者数、新感染者数(前日から増えた数)、過去7日間の感染者数、過去7日間における人口10万人当たりの感染者数(過去7日間における1日の新感染者数の中間値)、死亡者数です。

ロベルト・コッホ研究所の新型コロナ統計ダッシュボード

 ロベルト・コッホ研究所はさらに、ドイツのボン大学と米国のジョンズ・ホプキンス大学と協力して、新型コロナ統計ダッシュボードも運用しています。ここで公開されるデータは、公式データから評価した推計値です。さらに、各都市と郡の自治体のデータもここで公開されています。

 さらに重要なのが、実効再生産者数(R値)です。これは、一人の感染者が平均何人感染させるかを示すものです。ロベルト・コッホ研究所は現在、過去4日間と過去7日間の1日の新感染者数の中間値の両方を使って、実効再生産者数を公開しています。

 そのデータに透明性をもたせるためには、R値をどう換算したかも公開しなければなりません。そのため、数理モデルも同時に公開しています。

 ここで問題になるのは、こうしたいろいろなデータがある中で、どのデータを感染状況を見るための指標とするべきかです。

 現在ドイツでは、人口10万人当たりの感染者数が一番重要な指標になっていると思います。ただそれは、政治判断基準にすぎません。ドイツでは現在、人口10万人当たり感染者数が50人を超えた自治体が出た場合、その自治体をロックダウン(封鎖)することにしています。しかし、これまで実際にロックダウンとなったのは、1地域だけにすぎません。それは、その地域にある精肉工場でクラスターが発生したからでした。

 しかしそれも、クラスターが発生したからとその地域全体すべてをロックダウンするのは適切でないと、地方裁判所が判断しました。その結果、地域全体のロックダウンは解除されました。

 ドイツの感染防止対策は、クラスター中心の対策に移行しています。その意味で地域全体をロックダウンするのは、それほど意味のあることではありません。

 現状からすれば、人口10万人当たりの感染者数を指標にするのも、それほど適切とはいえません。人口10万人当たりの感染者数50人というのは、指標ではありません。あくまでも、政治判断の基準にすぎません。科学的根拠もありません。

 政府は当初、人口10万人当たりの感染者数では35人をロックダウンの基準にしたい意向でした。それが、各州の意向で50人に引き上げられたにすぎません。

 その他に指標となるのは、新感染者数と実効再生産数です。新感染者数は、感染者数が指数関数的に増加した時期には指標として有効でした。ロックダウン前後の実効再生産数は、1を少し上回る程度でした。それでも、新感染者数は指数関数的に急増しました。だからその時は、実効再生産数にはあまり注目されませんでした。

 実効再生産数が指標として注目され出したのは、ロックダウンによる制限を解除する時期です。特に、解除前と解除後です。特に、解除後に実効再生産数が指標としてより注目されるようになりました。

 実効再生産数は、ロックダウン解除後上昇し、2以上に上ったこともあります。でもその時は、新感染者数がすでに1000人をかなり下回っていたので、実効再生産数が高くなっても心配ないとの見方が主流でした。

 こうして見ると、感染拡大を見る指標を何にするのかは、その時の状況に応じて変える必要があることがわかります。

 いずれにせよ、新型コロナについてはできるだけ早く正確な感染状況を示す統計データを把握、開示することが必要です。さらに、そのデータに透明性があり、情報が隠蔽されていないこともたいへん大切です。

 ロベルト・コッホ研究所の発表するデータについては、一時開示が遅いと批判が出たこともありました。しかし、保健所など関連機関がパンク状態であったことを考えると、致し方ないところもあります。

 でもデータの透明性としっかりした開示方法を考えると、ドイツのやり方は一つの模範になるものだと思います。

(2020年7月10日、まさお)

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関連サイト:
ロベルト・コッホ研究所の新型コロナデータ開示ページ
ロベルト・コッホ研究所の新型コロナ統計ダッシュボード

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