日本行きのドイツ潜水艦には酸化ウランがあった

終戦を巡る原爆の謎

 米国ポーツマスに投降したドイツの潜水艦U234号が輸送用に改造されていたのは、すでに書きました。U234号の任務が何のためだったのか。米軍がそれをどの程度把握していたかは、はっきりしせん。それに対して英国軍は、U234号が輸送潜水艦で、日本に向かうことは、情報機関から情報を得ていたと見られます。英国軍がU234号を執拗に捕獲しようとしたのもうなずけます。英国軍は、うまい魚を逃したことになります。

 米国海軍情報機関はまず、フェーラー艦長をはじめとして乗組員を聴取し、同乗者や積荷の内容とその取扱方法などに関して詳しい情報を収集しようとします。危険な物があれば、慎重に取り扱わないといけないからです。でも、あまり協力を得ることができません。積出を拒否する乗組員もいました。

 日本軍は、ドイツからの軍事技術移転に強い関心を持っていました。まず、日本海軍の技術ミッションが1941年、5カ月間に渡ってベルリンを中心にして、ドイツとヨーロッパ諸国を訪問しています。ドイツは技術移転の引き換えに、東南アジアからいろいろ物資が納入されるのを期待していました。

 ただ日独が正式に、軍事物資の供給で協力協定を結んだのは、1944年になってからです。日本はドイツから、レーダーや大砲、その他の武器、ミサイル、水中弾、ロケット、戦闘機、潜水艦、毒ガスなどを得ることを望んでいました。しかし戦争が続く中、それをそのまま日本に運ぶことは不可能です。

 そのため、それら軍事技術に必要な機材や資材、さらにそれを製造するために必要となる図面などの技術図書を、潜水艦で日本に輸送しようとしたのでした。必要に応じ、そのための開発者や技術者も日本に派遣される予定だったと見られます。

 しかし戦時下において、搬送された物資が実際にどの程度日本に届いていたのか。それは、わかっていません。図面のような技術図書が日本に届いても、日本が実際にそれを製造して、組み立てることができたのかどうかもわかりません。

 U234号には、メッサーシュミット社による世界最初のジェット戦闘機Me262と、世界唯一の実用ロケット推進戦闘機Me163の部品や図面などが搭載されていました。ジェット戦闘機用に開発されたBMWエンジンに関する技術図書もありました。米軍にとっては、願ってもない賜り物でした。

 U234号に搭載されていた貨物は、全部で162トン。押収リストによると、すべてが日本陸軍か日本海軍向けになっています。その中に、特別予想もしていなかったものがありました。

 U234号からの押収リストに、「URAMIUM OXIDE(酸化ウラン)」560キログラムと、記載されています。日本陸軍向けとなっています。押収リストは、ドイツ語の積荷リストから翻訳されたものと見られます。

潜水艦U234からの米軍押収リストの一部

 U234号の潜水艦通信士ヴォルフガング・ヒルシュフェルトさんが、兵士としての体験を日記として出版していますが、それについてヴォルフガングさんは、次のように記載しています。

 潜水艦の出航前、友永英夫海軍技術中佐と庄司元三技術中佐が甲板で、茶色の包装紙に包まれた四角い包み一つ一つに「U235」と記入していました。包みは立方形。一辺が、25センチメートルくらいの大きさでした。全部で47個。それをさらに、木箱に入れました。

 押収リストによると、その木箱が10箱あったのがわかっています。ヴォルフガングさんは、「包みは、とても重かった」と書いていますが、それも当然だと思います。ウランは、たいへん重い金属です。1立方センチメートル当たり、19グラム近くします(比重約19)。これは、ウランが鉄の2.5倍も重いことを意味します。

 その重い「U235」がウラン235だったのかと、ヴォルフガングさんが気づいたのは、潜水艦から積荷をおろしてしてからでした。U235の入った荷とその周辺を、米軍兵士がガイガー・ミュラー計数管と見られる円筒の筒に測定器と見られる箱をもってきて、測定をはじめたのです。放射線量を測定しているのだと、ヴォルフガングさんはピンときましました。

 ただその正体については、押収リストにある通り、これまで酸化ウランとしか知られていませんでした。

 この辺のことは、ぼくの電子書籍『きみたちには、起こってしまったことに責任はない でもそれが、もう繰り返されないことには責任があるからね』に、もっと詳しく書いています。関心のある方は、のぞいてみてください(以下に、リンクあり)。(つづく)
 
(2021年7月09日、まさお)

関連記事:
終戦直前日本に向かったドイツの潜水艦
ナチスドイツはなぜ原爆を使用しなかったのか
きみたちには、起こってしまったことに責任はない でもそれが、もう繰り返されないことには責任があるからね(書籍案内)

関連サイト:
ドイツ潜水艦博物館(Deutsches U-Boot-Museum, Cuxhaven-Altenbruch、ドイツ語)
きみたちには、起こってしまったことに責任はない でもそれが、もう繰り返されないことには責任があるからね(電子書籍、立ち読みできます)

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