ナチスドイツはなぜ原爆を使用しなかったのか

終戦を巡る原爆の謎

 『ヒトラーの爆弾(Hitlers Bombe)、ドイツ核実験の秘史』の著者ライナー・カールシュさんによると、ナチスドイツは1945年3月、原爆実験に成功していました。

 しかしその後、原爆実験に成功したことは、ナチスドイツの戦術に影響を与えていません。それは、どうしてなのか。ぼくは、たいへん疑問に思いました。

ゼーロウ高地の高台に立ってオーデル川を見た

 ベルリンの東、ポーダンドとの国境にオーデル川があります。現在それが、ドイツとポーランドの国境になっています。ちょうどそのドイツ側に、ゼーロウ高地という高台があります。現在、高台からオーデル川の方向を見ると、のどかな景色が広がっています。

 この地で1945年4月、ナチスドイツとソ連の間で最後の激戦がありました。ソ連赤軍は総勢約100万人。それに対しドイツ軍は、わずか12万人でした。高台を攻め落とすのは、軍事的にはとても難しいことです。ベルリンに侵攻するには、この高台を突破しなければなりません。ソ連赤軍にとって最大の難関でした。逆にナチスドイツにとり、ゼーロウ高地はベルリンを護る最後の砦でした。

 ソ連赤軍は3日間かけて、ゼーロウ高地を攻め落とします。ソ連赤軍兵士3万人が戦没します。ドイツ軍も1万2000人の兵士を失いました。ドイツ軍はその後、後退。4月25日、ベルリンが包囲されます。翌26日、ソ連赤軍がベルリンに進攻。ヒトラーは4月30日、自殺しました。

ゼーロウ高地にあるゼーロウ高地の戦いの記念碑。手前は、ソ連赤軍兵士の墓

 1945年5月8日、ドイツが降伏文書に署名しました。ドイツの敗北が決まったのです。ドイツの降伏は、米国が日本に原爆を投下するのと無関係ではありません。米国はどうしても、ドイツよりも早く原爆を開発したかったからです。米国はその後、同じ月の5月中に、原爆を日本に投下することを決定します。

 ライナーさんによると、ナチスドイツはゼーロウ高地の激戦の前に、原爆実験に成功しています。それなのになぜ、ドイツはゼーロウ高地の戦いで原爆を使用しなかったのでしょうか。もし原爆を使用していたら、ドイツの降伏はもっと後に延びなかったのでしょうか。

 ぼくは、この疑問をライナーさんにぶつけてみたかったのです。ぼくの頭の片隅には、ドイツの降伏が遅れていたら、最初の原爆がドイツに投下されていた可能性はないのだろうか。日本人として、そう考えて見ざるを得ませんでした。

 当時ナチスドイツには、もう戦うだけの余力はありません。敗戦は時間の問題でした。でも、ナチスドイツが原爆を使用しなかったのはなぜか。その背景をはっきりさせておきたかったのです。

 ライナーさんは、ソ連も米国もナチスドイツが原爆実験に成功していた情報を掴んでいたとします。でも米ソは、ナチスドイツの原爆が小型で、戦局に影響を与えるものではないのは知っていた、と推測します。

 ソ連軍総司令部(スタフカ)の参謀総長アレクセイ・アントーノフは、スターリンにナチスドイツの原爆実験について報告したソ連原爆開発プロジェクト責任者イゴーリ・クルチャトフの手紙に対し、ドイツの原爆は小さいので、ソ連赤軍の進攻に影響を与えるものではないと伝えています。

 ナチスドイツのウランプロジェクト最後のプロジェクト長ヴァルター・ゲアラッハも、原爆実験直後にベルリンに呼ばれ、当時ナチス党のナンバー2だったマルティン・ボアマンに、実験は成功したが、軍事上実戦の効果は期待できない、と報告しています。

 さらにライナーさんは、ナチスドイツが原爆実験後、もう原爆を持っていなかった可能性が高いとも推測します。ナチスドイツにはすでに、戦争を続けていくのに必要な資材がなく、資材不足が深刻でした。

 ドイツの敗戦は、もう決まっていたのです。後は、ドイツがいつ降伏するかだけの問題でした。原爆は、ドイツの敗北を引き延ばすことはできなかったのです。それに伴い米国は、原爆の標的を日本にします。

 ドイツの降伏を広島と長崎への原爆投下と切り離せないのには、こうした歴史的な背景があります。

 この辺のことは、ぼくの電子書籍『きみたちには、起こってしまったことに責任はない でもそれが、もう繰り返されないことには責任があるからね』において、もっと詳しく書いています。関心のある方は、のぞいてみてください(以下に、リンクあり)。(つづく)
 
(2021年6月11日、まさお)

関連記事:
スターリンの原爆実験ビデオ
ナチスドイツは原爆を開発していなかったのか
ドイツの終戦日5月8日と日本への影響
きみたちには、起こってしまったことに責任はない でもそれが、もう繰り返されないことには責任があるからね(書籍案内)

関連サイト:
きみたちには、起こってしまったことに責任はない でもそれが、もう繰り返されないことには責任があるからね(電子書籍、立ち読みできます)

この記事をシェア、ブックマークする

 Leave a Comment

All input areas are required. Your e-mail address will not be made public.

Please check the contents before sending.