ワクチン接種を義務付けるべきかどうか、それが問題だ

 一昨日の2022年1月26日、ベルリン・ブランデンブルク門の周辺から連邦議会議事堂周辺がベルリンとしては珍しく、バリケードで閉鎖され、とても厳重に警備されていました。

 連邦議会議事堂の広場前には、放水車2台と装甲車1台まで待機していました。

連邦議会議事堂の広場前に待機する放水車2台と装甲車1台

 ぼくは何事かと、思いました。コロナ対策に反する大きなデモが予定されているのかなと、まず思いました。すぐに、今日は連邦議会でワクチン接種を義務付けるかどうかについて、最初の議会討論がある日であることを思い出します。

 それで、警備をいつもより厳重にしているのだな、とわかりました。近くにいた警官に聞いたところ、やはりそうでした。

 実際には、それほど抗議、反対する人も集まらず、デモ隊と警官隊が衝突することもなく、その日は終わりました。

 ドイツでは今、オミクロン株が猛威をふるっています。1日の新規感染者数はドイツ全体で、ほぼ20万人になり、直近1週間の人口10万人当たりのコロナ感染者数はドイツ全体でも、1000人を超えました。

 今さらワクチン接種を義務化して、何の役に立つのかと疑問に思う人も多いと思います。今、ワクチン接種を義務付けることを議論するのは、オミクロン株対策ではありません。今年の秋から冬にかけ、新しい感染の波がきても医療崩壊しないよう、ワクチン接種の義務化で人口の約90%の人が集団免疫を持つようにすることを目指します。

 ロベルト・コッホ研究所の公式データによると、ドイツでは2022年1月27日時点で、2回ワクチンを接種した人は人口の73.8%、3回ワクチンを接種した人は52.2%になります。

 ヨーロッパではすでに、オーストリアが成人となる18歳以上の人にワクチン接種義務を課し、非接種者には最高3600ユーロ(約47万円)の罰金を課します。その他、イタリアが50歳以上、ギリシャが60歳以上の人にワクチン接種を義務化しています。特定の職業者に対してワクチン接種を義務化しているのが、イタリア(医療、教育、軍事)、ギリシャ(医療)、フランス(医療、消防)です。ドイツも今年2022年3月15日から、医療・介護従事者にワクチン接種義務を課します。

 ドイツの政界では昨年2021年秋頃まで、ワクチン接種の義務化に対しては反対意見が多かったと思います。特に極右政党のドイツのための選択肢と新政権入りをめざす自民党が、義務化に反対していました。デルタ株で感染者と感染重症者、死亡者が増えても、ワクチン接種に反対する人は減りません。政府のコロナ対策に反対し、過激になるばかりでした。

 ワクチン接種者が増えるにつれ、ワクチン非接種者は少数派になります。しかし集団免疫が得られない限り、感染の波を防止ぐことができません。医療崩壊を避けるためのコロナ対策は、主にワクチン非接種者のために講じることになります。ワクチンが接種してあっても、感染するリスクはあります。しかし悪化して重症になったり、死亡するのは、ごく少数です。医療崩壊の危機をもたらすのは、ワクチン接種を拒否している人たちになります。

 医療崩壊を回避するために講じられるコロナ対策は、すべての人に適用されます。ワクチン接種をした人の自由もそれによって、制限しなければなりません。ワクチン接種を拒否する人たちは、接種するかしないかの選択は自由だ、ワクチン接種によってからだを傷つけられるなどと批判します。しかし集団免疫を達成できない限り、少数派のワクチン非接種者のために、多数派のワクチン接種者の自由が制限されるというねじれ構造が生まれてきました。

 ワクチン接種を拒否する人も単一ではありません。ワクチン接種に不安のある人、ワクチン接種を傷害罪だと批判し、過激になる人、極右系の人たちなど。特に後者の2層の人たちには、いくら啓蒙運動をして議論しても、聞き入れてもらえるチャンスはありません。

 集団免疫が達成できないかぎり、いつまで経とうが、感染の波がくる危険があります。あるいはコロナウイルスが変異して、インフルエンザのように流行性風土病のようにならなければなりません。今後どう進展するかは、コロナウイルス任せになります。

 このジレンマから社会を解放しなければ、コロナ禍の経済的、社会的問題は解決できません。あるいはすべての規制を解除して、感染犠牲者が増えるのを覚悟するしかありません。

 それに伴い、ワクチン接種義務化を支持する声が、政治、社会において増えてきます。ショルツ新首相(社民党)もワクチン接種を義務化すると明言しました。最近の世論調査でも、3分の2がワクチン接種義務化を支持しています。

 政府が設立した中立の倫理委員会も当初は、義務化に反対でした。しかしここにきて、ワクチン接種の義務化を支持すると正式に表明しています。ただし、いくつかの条件をつけました。

 ワクチン接種者の登録簿があること、外国人低所得者層の多い地域でのワクチン接種体制を強化すること、すべての住民(正確には、すべての非接種者)に対して個別にワクチン接種招待状が送られることなどを条件としています。

 この主な3つの条件はまだ、満たされていません。

 昨年2021年12月に誕生したドイツ新政府は、政府がそのための法案を出すことを放棄しました。ショルツ新首相は、倫理という重要な問題なので、政府が法案を立案するのではなく、党議拘束を外して、国会で議員が自由に議論して、自由に表決できるようにするほうがいいとして、議員立法にすることを主張しました。

 その背景として、政府与党の自民党内で義務化に反対する議員が結構おり、政府与党だけでは法案を成立させることができない可能性もあるからだと見られます。

 今のところ、政府与党の社民党と緑の党、自民党の議員を中心にした議員グループによって簡単な法案が出されています。それが国会審議を通して、さらに修正、詳細化されると見られます。

 法案では、ワクチン接種義務を成人となる18歳以上に課する方向です。それに対して、50歳以上ないし60歳以上と、年齢制限が付加される可能性もあります。

 政党では、与党の社民党と緑の党、野党のキリスト民主・社会同盟が義務化賛成だと見られます。その他では、与党の自民党と野党の左翼党では、賛成派と反対派で破れています。ドイツのための選択肢は、反対でまとまっています。

 法曹界でも、ワクチン接種を義務化することに対して、合憲か違憲かで破れています。憲法においては優先順位はつけられておらず。その時にどちらが適切かによって、合憲か、違憲かを判断しなければなりません。ドイツ憲法裁判所は、これまでのコロナ対策を合憲とする判断を下しています。ただワクチン接種の義務化に対してどう判断するかは、まだ検討がつきません。

 問題は、ワクチン接種を義務化しても、それをどう執行するかです。すでに書いたように、ワクチン接種者の登録簿がないので、ワクチン接種者か非接種者かは、個人の保有するワクチン接種のQRコードでしか確認できません。紙のワクチンパスはドイツでは、公式のものとは認められていません。偽造の疑いがあるからです。

 誰が、それをチェックするのか。罰金を課す場合、いくらが適切で、それを誰がどう徴収するのか。こうした実務上の問題も、何も決まっていません。

 もう一つ、科学的な問題もあります。現在EUでは、ワクチンを接種後9カ月経つと、ワクチン接種は無効になります。それを6カ月にすべきだという意見もあります。いずれにせよ、ワクチン接種の義務化は期限付きで行うしかありません。その時、その期限はどの程度が適切なのか。それもまだ、はっきりしません。

 こうして見ると、ワクチン接種を義務化するといっても、たくさんの問題、課題があることがわかります。さらにそれに伴い、ワクチン接種を拒否する人たちがさらに過激になることも考えられ、大きな社会問題となる危険があります。

 いや、とんでもない難題です。ただそれは、今のドイツがとても民主的な国家だからだともいえます。それ故に、問題がより難しくなっています。

 中国やロシアなど独裁的な国家では、国が義務だといえば、それで済みます。あるいはイギリスやブラジルなどのように、死者が増えるのを覚悟して無策に徹し、社会の集団免疫をめざすという手もあります。ただ民主的なドイツでは、それは道徳的に許されません。

 ぼくは、すべては無理ですが、ワクチン接種に不安のある人たちと外国人低所得者層がワクチンを接種した段階で、すべてのコロナ対策を解除してはどうかと思っています。強行にワクチン接種を拒否する人たちには、何をいっても聞き入れてもらえません。感染するか、しないかは、自己責任です。

 問題はそれによって、医療崩壊しては困ることです。それを避けるには、ワクチン非接種者が感染した場合、医療をどうするかが問題になります。これまでのように、コロナ感染者の治療を優先させると、医療が崩壊する危険があります。

 ただそれは、そうでもないのです。医療体制には地域差があります。オミクロン株では重症化するケースが少ないので、ベルリンのような大都市では感染者がすごく多くても、医療体制はそれほど緊迫していません。医療体制が緊迫するのは、地方の一部です。

 それなら、患者を地域間でより柔軟に融通する体制はできないのか。確かにこれまで、コロナ感染者を他の地域に移送するケースがありました。しかしそれは、むしろ稀なケースだったと思います。それをさらにやりやすいように、柔軟な体制を築きます。

 ぼくは医療崩壊時には、ワクチン非接種者の治療を優先しなくてもいいとまで思っています。ワクチン接種を拒否し、感染したのは自己責任ですから。ただそうなると適切ではなく、違憲でしょうね。実際にはそうしなくても、表向きだけでもそうして、非接種者にプレッシャーをかける手もあるのではないかと思っています。

 というのは、医療崩壊時にどちらを助けるかを判断するのは医師です。医師には、そのための判断基準が規定されています。医師はその規定に基づいて、中立に判断するしかありません。そこまでは、手を加えません。

(2022年1月28日、まさお)

関連記事:
コロナ対策で指導力を発揮できなかった
コロナ対策に反対するコロナデモの次は何か
コロナ禍でニセ情報の広がる5つの方法

関連サイト:
ドイツ連邦議会のサイト(ドイツ語)
ドイツ倫理委員会のサイト(ドイツ語)

この記事をシェア、ブックマークする

 Leave a Comment

All input areas are required. Your e-mail address will not be made public.

Please check the contents before sending.