コロナ対策で指導力を発揮できなかった

語られないメルケル首相の失政

 ドイツは今、コロナ第4波に襲われています。デルタ株によるものです。現在は第4波が収束しないうちに、オミクロン株による第5波がくるのが確実な状況。感染者数は減ってきていますが、余談を許せません。

 ドイツは昨年2020年初期のコロナ第1波に対して、初動も早く、検査を素早く拡充しました。世界の中でも、第1波の影響を最も抑えることのできた国の一つです。その時は、ウイルス学者など科学者の予想、提案がコロナ対策にうまく反映されていました。

 しかしそれで、油断が生まれます。2020年夏にはほとんどの対策が解除され、秋に予想される次のコロナ波に向けた対策がほとんど準備されていませんでした。案の定、秋に大きな第2波がきます。

 第2波が収束したと思ったら、今年2021年春にすぐに第3波となり、第3波が収束すると、夏には再び規制が緩和されます。秋にくる次の波に向けても、まったく準備がされていませんでした。

 今、これまでとは比較にならないすごい第4波に襲われています。

 昨年夏に何も準備しないまま第2波となった教訓が、今年の秋の第4波にはまったく生かされていません。昨年と同じことが繰り返されています。

昨年春の第1波のロックダウンでは、観光の名所ブランデンブルク門前もほとんど人がいなかった。2020年3月撮影

 その背景の一つに、今年2021年秋に国政選挙の連邦議会選挙があったことがあります。政治は選挙モードで、政治が動かなくなってしまいます。第4波に入っても、政権交代に向けた交渉で、政治が動きません。その間、メルケル政権が責任を持ってコロナ対策にあたらなければなりませんでした。しかし旧政権も新政権も、新政権の枠組みが決まるまで、誰もコロナ対策を真剣に考えませんでした。

 さらにコロナの波が繰り返される毎に、経済への影響を考え、政治が科学に耳を傾けなくなります。秋の総選挙を前に、政治がコロナ対策を厳しくして有権者の支持を失うことを嫌ったともいえます。

 もう一つの問題は、ドイツの連邦制です。連邦制のドイツでは、感染問題は州の管轄になります。国が感染対策を決めても、具体的な対策は、実際に対策を講じる各州に委ねられます。そのため、各州がその感染状況に応じて、それぞれ独自の判断でコロナ対策を実施します。その結果ドイツでは、国全体で統一された対策を講じることができませんでした。

 ドイツ北部の一部の州では、感染状況がそれほどひどくありません。その結果、コロナ対策はそれほど厳しいものとはなりませんでした。それが一般市民に混乱を招き、コロナ対策の効果に疑問を抱かせる大きな要因ともなりました。

 ドイツではワクチン接種が、昨年2020年12月からはじまります。しかしワクチン不足で接種がなかなか進みません。さらに、ワクチン接種を拒否する市民による反対デモも頻繁に起こるようになります。

 ワクチン接種率が低いのは、ドイツ南西部とドイツ東部です。ドイツ南西部では、ルドルフ・シュタイナーの神秘主義の影響を受けた市民や、秘儀主義を信じる市民、代替医療に強い信仰を持っている市民が、他の地域より多くいます。そのため、ワクチン接種率が上がりません。

 ドイツ東部では、コロナの影響を否定し、ワクチン接種も拒否する極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の影響が強いという問題があります。国からワクチン接種を要請されるのは、東ドイツの独裁体制下のように国家から強制されるように感じ、市民がそれに反発するという問題もあります。

 ドイツでワクチン接種を2回受けた人の割合は、ようやく70%を超えました。しかしその程度では、集団免疫は達成できません。実際、第4波の感染者の多くがワクチンを接種していない人に占められています。

 ドイツのコロナ対策が、いつの間にか後手に回ってしまったといわざるを得ません。

 その背景の一つに、メルケル前首相の指導力不足を挙げなければなりません。メルケル首相は自然科学の博士号を持っており、政治家の中でも科学に対して強い信頼を持っています。

 メルケル首相はしかし、自然科学者としての信念を政治に反映できません。科学がコロナの状況が深刻だと警告しても、それを警告するだけでした。首相としての指導力を発揮して、自分の心配をコロナ対策にまで反映させようとしませんでした。

 もしメルケル首相が科学の警告をもっとコロナ対策に反映させ、コロナ対策を厳しくさせていたら、ドイツのコロナの状況は今、違うようになっていたと思います。もっと改善されていたのは間違いありません。メルケル首相の躊躇が、今のドイツのコロナ状況により悪化させたといっても過言ではありません。

 それは、気候変動問題においてメルケル首相がその現実を認識しながらも、指導力を発揮しなかったのとよく似ていると思います。

 今、16年続いたメルケル政権に終止符が打たれました。社民党と緑の党、自民党の3党による中道左派政権が、ショルツ首相の下で動きはじめました。

 3党連立はドイツでは、はじめてのことです。これだけ政治ビジョンと政策の異なる3党が連立するのは、他国では考えられないと思います。その点でドイツにおいてはまだ、民主主義が真に機能しています。

 でも、課題は山積みです。新政権は発足と同時に、たくさんの課題に直面し、問題をひとつひとつじっくり把握している余裕さえありません。いきなり、渦中に入ってしまいました。それもドイツの政治史において、はじめてのことだと思います。

 そのはじめてづくしの新政権。新政権がどう発展していくのか、ぼくはとても関心深く見ていきたいと思います。

(2021年12月21日、まさお)

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関連サイト:
メルケル前首相のサイト(ドイツ語)

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