人権擁護、外交交渉、平和という神話

 ウクライナ戦争がはじまって、6カ月経ちました。ウクライナで攻撃を受けている市民にとっては、長い苦悩の日々が続いています。

 緊急事態や異常事態になると、その事態に対して、人それぞれの反応と対応が大きく異なってきます。「ええ、あの人が」と、普段は想定できない反応や対応をする人が増えてきます。予想してなかった『神話』のようなものも、生まれます。

 ドイツの政界やメディア、社会を見ても、同じことがいえると思います。今のドイツの報道ニュースは、ぼくには見ておれません。

 ドイツのメディがこうなってしまうのは、ちょっと意外でした。でもそれは、ドイツから陸続きの近いところで戦争がはじまるという異常事態故だと思います。

 これまでウクライナ戦争に関して、いろいろ報道され、議論もされてきました。でもぼくには、その議論に矛盾を感じるほか、理解できないことがいろいろあります。

 一つは、ウクライナ市民が無差別攻撃で、虐殺されている問題です。これは、明らかに人権無視だといわなければなりません。人権擁護は、絶対的なものでなければなりません。

 しかしプーチン大統領を擁護する議論では、ロシアによるウクライナへの侵攻においては、冷戦終結時の約束を破って、NATOを東欧諸国に拡大させた西側諸国に責任があるのだと主張されます。ちょっと待ってください。

 NATOの東方拡大は確かに、プーチン大統領がウクライナ侵攻を決断した大きな要因かもしれません。しかしウクライナ戦争において、人権を無視して、民間人を無差別攻撃して殺害しているのは誰ですか。

 ウクライナ戦争においては、人の命も含め、あらゆるものが破壊されています。戦争後の復興も考えられていません。プーチン大統領は、ウクライナのすべてを消滅させたいかのようです。

 それに対してまで、NATO、西側諸国に責任がありますか。

ベルリンのブランデンブルク門前のデモ集会で、ロシアによるウクライナ侵攻に反対する市民

 プーチン擁護論者の中には、左派が多く見られます。その中には、人権まで無視すべきだと主張する人はいないと思います。それなら、人権を無視しているプーチン大統領を擁護するのと、人権は擁護すべきだと主張するのは矛盾しませんか。人権擁護を大原則とするなら、NATOを批判するのは、見当違いもいいところです。プーチン大統領を批判しなければなりません。

 NATOの東方拡大についても、一つ大きな誤解があります。

 今東欧諸国において、ロシアの体制下に入りたいという国は、ベラルーシ以外にありません。ロシア支配になると、旧ソ連時代のように独裁体制下になり、反体制派は弾圧され、言論の自由も移動の自由も剥奪されかねません。そういう時代に戻りたいという国はありません。特にバルト3国には、それに対してたいへんなアレルギーがあります。

 旧東ドイツの市民にも、同じことがいえます。誰もが、今の資本主義体制をいいと思っているわけではありません。しかし反体制派を認めず、言論の自由も移動の自由もなかった共産主義、社会主義独裁体制に戻りたいという市民は、ほとんどいません。

 何はともあれ、戦争が終われば、もう武器で人の命は奪われません。しかしその結果、独裁体制になれば、市民は自由を失ってしまいます。戦争さえ終われば、自由を失っても平和なのでしょうか。

 人権を含め、すべてのウクライナの存続を認めないプーチン大統領は独裁者です。ロシア国内においても、反体制派を弾圧どころか、殺害してきました。言論の自由もありません。

 東欧諸国は、ロシアに侵攻され、これまでに得た独立性と自由を失うのを一番恐れています。旧ソ連体制下にあった東欧諸国の市民には、独立性と自由を守ることも平和なのです。それを理解しなければなりません。

 すでに述べたように、プーチン大統領は、人の命も人権も含め、ウクライナの存続すべてを消滅させたいのです。これはもう、ある一定のルールのある戦争ではありません。虐殺行為です。

 だからといって、プーチン大統領は戦争犯罪者、虐殺者だと批判し、プーチン大統領に人権擁護を求めても、戦争は終わりません。

 西側のいう価値観に、プーチン大統領はまったく関心がありません。そういう人物に対して、価値観から議論しても意味がありません。プーチン大統領は、自分自身の価値観でか判断しなません。行動もしません。

 この現実は、プーチン大統領といかに外交で交渉しようが、戦争を終わらさせることはできないということです。

 もちろん、外交交渉を粘り強く続けて、戦争を終結できれば、それに越したことはありません。しかしプーチン大統領が外交交渉に耳を傾けることは、今のところ考えられません。

 プーチン大統領が怖いのは、国内地盤が弱くなることだけだと思います。戦争が長引けば、ロシアにおいても兵士の戦没者が増えます。自分のこどもを戦争で失う親が増えます。それとともに、ロシアにおいて世論が反戦、反プーチンにに向かう可能性があります。

 プーチン大統領には、それが怖いと思います。だから国内でプロパガンダと情報操作を続け、反体制派を弾圧します。

 西側にも経済制裁をさらに強化しても、プーチン大統領が外交交渉において和平を受け入れるだけのうま味のある種がありません。それでどう、和平のために外交交渉ができますか。

 戦争とともに、現実を見ない神話が増えたと思います。

(2022年8月26日、まさお)

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関連サイト:
世界人権宣言テキスト(日本語)

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