侵略戦争に無力な世界

 ロシアがウクライナに侵攻し、1年が過ぎました。外交交渉によって、和平を求める声も高まっています。

 日本では、ロシアによる侵攻と表現されています。しかしこれは、明らかにロシアによる侵略戦争です。ウクライナはそれに抵抗し、防衛しているのだと理解すべきです。

 ウクライナ問題においてあまり取り上げられないのが、ブタペスト覚書です。まずそれについて、語るべきだと思います。

 ソ連崩壊後、ウクライナは1991年に独立しました。ベラルーシとカザフスタンも独立します。その3国の領土保全と政治的独立、他国による武力行使に対して安全を保障する目的で、ブダペスト覚書が1994年に締結されました。

 同時に、ウクライナをはじめ旧ソ連から独立した3国は、旧ソ連の核兵器を放棄し、ロシアに引き渡すことになります。そのため、核保有国であるアメリカ、イギリス、ロシアの3国も、覚書に署名しました。

 ロシアはこの時点で、ウクライナの独立と国境線をはっきりと保証したことになります。

 しかしロシアは2014年、ウクライナに属するクリミア半島を一方的に併合しました。ブタペスト覚書に反する行為でした。昨年2022年2月にロシアがウクライナに侵攻したことで、ロシアはこの覚書を、ウクライナに関して破棄したことになります。

 クリミア併合は、2014年にウクライナで親ロ派のヤヌーコビッチ政権が倒れ、親欧米派暫定政権が誕生したことによってはじまります。親ロ派の一部クリミア住民が新政権支持派と対立、紛争がはじまりました。ロシアはそれを利用して、親ロ派にクリミアをウクライナから独立させ、ロシアに併合したのでした。

 クリミア併合は、当事国であるウクライナ自体が認めていないプロセスで行われました。そのため国際法上、認められていません。

 その後、ロシアに後ろ盾された分離独立武装勢力がウクライナ東部の一部地域を占拠。ウクライナ軍と衝突します。紛争を停戦させ、和平を実現するため、2014年9月に停戦が合意されました(ミンスク1)。しかし停戦は機能せず、武力闘争と政治的な紛争が続きます。それを解決するため翌年2015年2月、独仏首脳が仲介してミンスク合意(ミンスク2)が締結されました。

 この一連のミンスクプロセスによって、ウクライナ東部のドネツク州とルガンスク州は自治地区として、地方分権化が認められました。停戦と国境の監視、監督が、欧州安全保障協力機構(OSCE)の下で行われることになります。

 しかしドンバスなどで、武力闘争が続きます。ロシアはウクライナに侵攻する直前、ドネツク州とルガンスク州をそれぞれ独立した人民共和国として承認しました。

 ロシア軍は侵攻後、ウクライナにおいて無差別殺害と無差別破壊を繰り返しています。これまでの過去の経緯を見ると、ロシアのプーチン大統領が旧ソ連に属していたウクライナを再び占領して、支配下に置きたいのだということがよくわかります。

 プーチン大統領は最初、表に出ずに親ロ派勢力を使い、ウクライナ侵攻でついに表に出てきたのだと思います。これらのプロセスは最初から、侵略を意図したものとしか思えません。

 プーチン大統領はロシアがウクライナに侵攻したのは、北大西洋条約機構(NATO)が東方に拡大してきたので、その脅威に抵抗するためだと説明しています。しかしそれは、実際の意図を隠すためにすり替えたものとしか考えられません。

 NATO問題についてはまた、別の機会に書きたいと思います。

ベルリン東部のベルリン・カールスホルスト博物館に展示されている第二次世界大戦の独ソ戦に使われて旧ソ連赤軍の戦車など。同博物館では1945年5月8日、ドイツが英国とソ連と降伏文書に署名した

 戦争による人殺しは早く辞め、停戦から平和を目指す外交交渉が行われなければなりません。

 しかしぼくはここで、侵略戦争に対する無力さを感じざるを得ません。

 平和のため、ウクライナがたとえば、クリミアとウクライナ東部の領土をロシアに譲ることになったとしましょう。そうなると、侵略を意図したロシア・プーチン大統領の思うツボです。無差別殺害や無差別破壊を行なってきたプーチン大統領の戦争犯罪に対しては、世界はまったく何もできず、無力です。

 世界は戦争犯罪者であるプーチン大統領を、何ら罰することができません。国内の勢力闘争で失脚しない限り、プーチン大統領は独裁者としてロシアを支配し続けると思います。

 ロシア軍によって殺害されたウクライナ市民と、破壊された街とインフラに対しても、ロシアは何ら損害賠償をしないと見られます。ロシア支配下に入るウクライナ東部は廃墟のままとなり、ウクライナの再建・復興はすべて、ヨーロッパと米国が共同で財政支援しなければならなくなります。

 世界はここにおいても、ロシアに対して侵略戦争に伴う損害を賠償させる手立てを持っていません。

 侵略を受けたウクライナは侵略者を国土から追い出すのではなく、侵略者であるロシアと和平を求め、領土の一部を開け渡すことで交渉しなければならなくなります。しかしロシアがそれで、長期に渡ってウクライナの国境線と武力行使をしないことを保証したとはいえません。その保証はどこにもありません。

 考えてみてください。自分の家に侵入した泥棒と、泥棒に持っていってもらうものを交渉するお人好しはどこにいますか。自分の家だったら、「出ていけ!」と泥棒を追い出すだけです。

 それだけ、世界は侵略に対して無防備で、無力なのです。国際法に違反してプーチン大統領が侵略しても、ロシアはたくさんの兵士と兵器を失うかもしれません。しかし国としては、何も損をしません。それどころかロシアは、領土を拡大することができます。

 ウクライナ市民を何人殺そうが、殺人犯とはならず、罰せられることもありません。ウクライナ市民にとっては、自宅に泥棒が侵入して家族が殺害されても泣き寝入りして、平和のために交渉しなければならないということです。

 自宅に泥棒が入るのと違い、侵略戦争では侵略者を簡単に追い出すことができません。ウクライナは今、侵略者から領土と市民を守ろうとしています。ウクライナとロシアでは軍事力に違いがありすぎるので、ウクライナはヨーロッパと米国から武器を提供してもらって支援を受けなければ、自国を防衛できません。

 ウクライナは自国を守らないと、ロシアにすべて占領されてしまいます。そうなると、ウクライナ市民が性的暴力を受けるばかりでなく、大量殺害されてしまう危険があります。

 侵略戦争では、強い方が好き勝手に振る舞うことができます。何が何でも、侵略したほうが得です。国際社会は侵略者に、撤兵を求める強硬な手段を持っていません。侵略者が撤兵するのは、自国に不利になった時だけです。それが、侵略戦争です。

 人の命が戦争によって、失われてはなりません。平和を求め、できるだけ早く停戦しなければなりません。侵略戦争は、侵略者が撤兵すれば終わります。しかしそれが、簡単ではないことはすでに書きました。

 侵略者の完全な撤兵なしに、ウクライナに平和はあるのでしょうか。ウクライナ市民にはいつまで経とうと、戦争前の領土も、人の命も、日常生活も戻ってきません。それで本当に、平和なのでしょうか。そして平和は、長続きするのでしょうか。

 侵略者が罰せられないと、プーチン大統領はこれからも、世界は何もできないと侵略戦争を続けると思います。プーチン大統領の前例から、世界の他の独裁者も侵略に走る可能性が生まれます。世界が侵略戦争に対して、無力だということがはっきりするからです。それとともに、世界はもっと危険になります。

 それは、これまでの戦争の過去を見てもわかると思います。

 戦争は早く終わってほしい、世界は平和になってほしいと思います。でもそれで本当に、平和はもたらされるのでしょうか。

 平和とは何なのか。新ためて考えさせられます。

(2023年3月03日、まさお)

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2022年2月24日

関連サイト:
世界人権宣言テキスト(日本語)

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