ドイツで起きた若者たちの抗議デモの真相

 先週の週末土曜日2026年10月31日、ドイツの30以上の都市で若者たちが抗議してデモを行いしました。教育の実態が悲惨で、インフレによって若者たちの生活難に苦しんでいます。兵役が義務化される心配があり、気候変動の問題も無視されたようになっています。若者たちはこうした問題に抗議しようとしたのでした。

ベルリン・ブランデンブルク門前での抗議デモ集会。「(現首相の)メルツは辞めろ!」の横断幕も見える。兵役義務化に反対するパネルもあった

 ドイツでは、学校の校舎が十分にメンテナンスされておらず、雨漏りしたり、トイレが汚いのは当たり前です。教師不足も深刻で、先生が風邪をひいて休んでも代理をする先生がいません。

 大学では入学しても、住宅難で大学のある都市で部屋を見つけるのがたいへんです。新学期がはじまっても、部屋を見つけることのできない学生がたくさんいます。たとえ見つかっても、小さな部屋一部屋借りるのに、ベルリンのような大都市では家賃が月700から800ユーロ(15万円)もします。ドイツ南部のミュンヒェンでは、家賃がもっと高いと聞いています。

 大学では学生たちにかなり厳しいカリキュラムが課せられるので、アルバイトをする余裕はそれほどありません。親に頼れない学生の生活は厳しくなるばかりです。大学進学率が上がって学生数が増え、どの講義も学生で溢れているのが目立ちます。

 ドイツでは、親の所得によって子どもの学力レベル、進学レベルが決まるほど格差が拡大しています。今年発表された2025年のPISA(OECD生徒の学習到達度調査)の結果では、ドイツの15歳の生徒たちの成績がこれまでで最低の結果となりました。ドイツの生徒のPISAの成績がよくないのは、これまで移民のこどもが多いことが影響していると評価されてきました。しかし今年発表された結果は、移民問題によるものではないとされます。親の所得の格差が子どもの学校での成績に反映されたものだと、はじめて断定されました。

 ドイツでは子どもに平等な教育の機会が与えられていないのが、立証されたといえます。

 この問題は、ドイツで小さな子どもに対して幼児教育が行われないことでより拡大されています。幼稚園は子どもを預かるものとされ、学校教育でも初等教育では授業が午前中だけで、生徒は午後学校に残ることもできますが、それは教育のためではなく、親が子どもをピックアップしてくれるまで学校で預かることを目的としています。宿題があっても、午後学校で宿題をさせることもありません。

 低所得の家庭では、小学校に入学する前にアルファベットを教えたりすることはあまりありません。読み書きを教えたり、本を読んで聞かせたりする親も少ないという現実があります。

 親に金銭的に余裕があれば、子どもに小さい時から適切な教育を施すことができます。しかし低所得で子どもの教育に関心のない家庭や共働きの家庭では、子どもが家庭で勉強していません。学校教育だけでその差を取り戻すのは不可能です。

 気候変動の問題についてもいっておかなければなりません。現在のメルツ中道右派政権は、再生可能エネルギーの拡大にブレーキをかけるどころか、潰そうとし、気候変動の問題には関心がありません。気候変動対策によって既存産業が大きな影響を受け、雇用も喪失してしまうと考えています。

 現実は逆なんです。気候変動対策を厳しくして企業が環境技術を開発し、環境技術に投資する基盤を確立しないと、イノベーション力で世界から取り残されます。既存技術だけに依存していては、国際競争力を強化することはできません。しかし保守的な政権は、既存技術、既存企業ばかりを守ることに集中します。それが「保守」ということであり、保守は革新性、改革を嫌います。

 気候変動の問題は、これからの若い世代により大きな負担がかかるだけに、若者としては黙っておれない重大な問題です。その点で、若者たちが「メルツ首相は辞めろ!」と主張するのは、よくわかります。

 ドイツの若者たちの抗議デモがフランスでの若者たちの抗議デモに感化されたのはいうまでもありません。しかし、はじめから非暴力で抗議デモをしようと訴えてきました。

 ドイツの若者有志がソーシャルメディアを通して知り合い、急遽抗議デモを企画したのでした。若者有志たちは「Gen Z regelt(Z世代は(自分のことは)自分で決める)」という名称で、抗議デモに参加するようアピールしました。

 しかしホームページには、デモを企画しているのが誰なのかはっきり明記されません。それが、学校の生徒の代表機関である生徒会議が今回の抗議デモに参加しなかった一つの理由でした。

 ベルリン・ブランデンブルク門前であったデモ集会をみていると、司会者やスピーカーはレンタルした小さなトラックの荷台でスピーチしますが、たくさんの参加者にはスピーチがよく聞こえません。スピーチを拡声する小さなスピーカーがトラックの荷台の左右にしかないからです。

 結局、話をよく聞き取れない若者たちがあちこちでスピーチとは関係なく、気勢を上げはじめます。よく聞くと、パレスチナ支援団体の気勢だったりしました。極右勢力を支援するストリーマーなども来ていましたが、「ナチス出ていけ」などとスピーカーの話とは関係ないシュプレキコールなども聞こえました。

 デモを企画した経験のなさが浮き彫りになっていたと思います。ベルリンでは、1万人以上の若者がホームページ上でデモに参加すると通知していましたが、実際には警察発表で5,000人しか集まっていません。

 最初にドイツの30以上の都市で若者の抗議デモが行われたと書きました。しかし実際にZ世代の有志Gen Z regeltが抗議デモを組織したのは、ベルリンの他、ミュンヒェン、フランクフルト、ケルンの大都市だけでした。後は、それぞれ地元の有志によって組織されたデモにすぎなせん。そのため、ドイツ全国で統一して組織されたデモではありません。突発的に各地で起こったデモといっても過言ではありません。

 ベルリンの抗議デモ集会は暴力もなく、平和に進んでいました。デモ集会の終わる16時ころには、すでに薄暗くなってきました。集会が終わるとデモ行進に出ますが、次第にデモの様相が変わっていきます。

 デモではよくあることですが、デモを利用して暴動を引き起こそうとするグループがデモに潜入しています。たとえば極左グループです。極左グループは最初は、一般市民、若者と同じような服装でデモに参加していますが、突然黒の覆面をして黒装束に変わり、暴動をはじめて機動隊と衝突します。さらにそれに便乗するのが、普段から何かと暴動を引き起こしている若者たちの集団などです。

 これら暴動集団はデモの最初から潜入していたり、途中からデモに加わったりします。その結果、デモ隊のごく一部が突然、暴動集団に変わってしまうのです。途中にある店舗のショーウィンドウを壊して、物品を盗んでいく者もいます。

 機動隊がすぐにそれを止めに入り、暴動集団と衝突します。小生はこれまで機動隊とデモ隊が衝突する現場をいくつも見てきましたが、機動隊の監視体制と暴動が起こった時の対応によって、暴動がエスカレートしたり、そのほどエスカレートしなかったりするのがわかりました。暴動がエスカレートして激化するかしないかは、機動隊の戦略と対応次第だともいえます。

 ベルリンでは長年、5月1日メーデーのデモにおいて、暗くなるとクロイツベルク地区において必ず機動隊と極左グループの熾烈な衝突が続いてきました。しかしいずれ、そうした激しい衝突がなくなっていきます。機動隊がエスカレートしない戦略を講じるようになったからともいえます。

 その点、今回もベルリンでは暴動がエスカレートしていません。しかしフランクフルトやケルンでは、暴動がかなりエスカレートしました。特にフランクフルトではいくつもの店舗が被害を受けます。

 デモに関連して暴動が起こると、暴動が起こったことばかりが大きなニュースになります。それとともに、非暴力で平和に主張した若者たちの訴えが忘れられてしまいます。

 暴動を起こした若者たちの身柄をはっきり確認しないまま(それには時間がかかる!)、暴動は極左グループと移民の若者によるものだ(ドブリント連邦内部大臣)としたり、暴動が起こるなら若者の抗議デモを禁止する(ノルトライン・ヴェストファーレン州ロイル内務大臣)と、政治において不確かな情報を元に発言する政治家が出てきます。その結果、非暴力で自分たちの抱える問題を訴えた若者たちのことは省みられなくなります。

 メディアでも、抗議デモに参加した若者たちが暴動を起こしたように報道しているものがありました。暴動のことばかりが報道され、若者たちの訴えは真剣に取り上げてもらえません。

西ベルリン・クーダム通りの高級ヴティック街の一部では、ショーウィンドーが大きな板で保護されていた。一部の店舗では、保護板が黒く塗られていたり、警備員が店舗の前に配置されていた

 むしろ、暴動を恐れて事前に店舗のショウウィンドーが板で保護される高級ヴティックの様子などがニュースとして取り上げられます。そうなると一般的には、どの店舗でもそうした保護対策を講じたように受け止められます。こういう報道の仕方では、一般市民がこれはたいへんなことになると思って当然です。

 しかし実際には、事前にショウウィンドーを板で保護したしたのはベルリンではごく一部だけでした。それも、デモ集会のあった場所からはかなり離れたところにありました。

 ニュースは、簡潔に短くしてわかりやすく伝えるものです。それも何か目立ったもののほうがニュースになりやすいのが現実です。背景を深く、細かく伝えることはニュースにはできません。しかしそれでは、現実を正確に伝えたことにはなりません。その結果、フェイクになったり、誤解を生だんりします。

 ぼくはそれを避けるため、今回深堀りして長い文章を書きました。

 2週間後の11月20日には、再びドイツ全国で若者たちの抗議デモが行われる予定です。今のところ、今回のデモからは距離を置いた生徒たちの代表で構成される生徒会議が政府の環境政策を批判してきたフライデーズ・フォー・フューチャーと一緒にデモを行う予定です。今回抗議デモを主催したGen Z regeltも参加するとしています。ただ互いに対話して、みんなが共同で抗議デモを企画できるかどうか。それも、今後の重要な課題になります。

(2026年11月04日、まさお)

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関連サイト:
Gen Z regelt(Z世代は自分で決める)のサイト

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