工業国の2つの義務

 前回、石炭や石油など化石燃料が有限である問題について書いた。ただそこでは、一つの問題について触れていない。

 それは、その有限資源をこれまで消費してきたのが、工業国だということだ。工業国は、有限資源を使って技術を開発し、豊かさを得てきた。それに対し、途上国は依然、工業国に依存して産業生産する。工業国の得た独立性や豊かさを獲得するまでには至っていない。そこに、大きな格差が生まれている。

 地球温暖化と気候変動をこれまで引き起こしてきたのは、工業国だということだ。それによって被害を受けるのは、小さな島国など有限資源を使った産業化の恩恵を受けていない小国や途上国のほうだ。まず、それをはっきりさせておきたい。

 中国で、二酸化炭素などの温室効果ガスの排出量が増えているのは、中国が世界の工場になっているからだ。これは、工業国が自国ではなく、中国で温室効果ガスを排出させているのに等しい。中国で製品を安く生産させると同時に、温室効果ガス排出のつけも中国に押し付ける。

ドイツ東部にある石油精製工場

 ここで一つの疑問が出てくる。温室効果ガスの排出を削減しなければならないのは、どこかという問題だ。排出削減は世界全体で実現しないと意味がない。でも、これまで気候変動を引き起こしてきたのはどこなのか。今も気候変動を起こし続けている要因はどこにあるのかだ。さらに、温室効果ガスの排出に対する製品消費国の責任はないのか。

 問題はきりがない。それが、気候変動に関わる問題の複雑なところだ。

 途上国は今後、気候変動を抑えるために、有限資源を利用して工業国のように産業を促進してはならないのか。工業国と同等の豊かさを持ってはならないのか。

 こんな不均衡で、不公平なことはない。気候変動問題は、工業国と途上国の間で経済的な格差ばかりではなく、社会的、倫理上の格差も発生させているといわなければならない。

 経済は、格差があるから成り立っている。労働力の安い途上国がなくなったら、工業国は今度、どこで生産させるのか。あるいは工業国の経済が成り立つように、途上国は途上国のまま止まるべきなのか。

 これは、工業国に都合のいいエゴにすぎない。早い者勝ちといってもいい。それに対して、工業国のように豊かになりたいという途上国の願いがぶつかる。途上国は豊かになるため、工業国がこれまで使ってきたように、有限資源である化石燃料を使いたいはずだ。それは、誰にも禁止する権限はない。

 このように問題提起してくると、工業国に2つの義務があることがわかる。

 一つは、いうまでもなく地球温暖化と気候変動を引き起こす原因となる二酸化炭素など温室効果ガスの排出を減らすことだ。その排出が実質ゼロとなるカーボンニュートラルをできるだけ早く実現しなければならない。

 もう一つは、工業国がカーボンニュートラルを実現させる上で実現される新しい技術と手法を途上国に提供することだ。それによって、途上国が最新の環境基準に基づいて、化石燃料を使わないで産業化できる道を提供しなければならない。そのために、工業国は途上国に対して十分な財政支援をする必要がある。

 そうしない限り、気候変動問題における工業国と途上国との間にある不均衡と不公平は解消できない。それが、世界全体で持続可能な開発を追求する前提となる。

(2021年5月13日、まさお)

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関連サイト:
地球温暖化に関して評価報告書を発表する気候変動に関する政府間パネル(IPCC)

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