再エネはみんなのもの

 脱炭素化(カーボンニュートラル)を目指す上で、工業国の役割と義務について述べてきた。これは、持続可能な社会を造るのに避けては通れない工業国の課題である。

 持続可能な社会では、無限な資源を利用する。有限資源に依存していて、持続可能な社会はありえない。そのためには、無限な再可能エネルギーに転換する。それが、エネルギー転換、エネルギーシフトなどといわれる。

 でも再エネに転換するのは、そう簡単なことではない。それは、現在の産業と社会など、ぼくたちの生きる基盤がすべて、石油、石炭など有限な化石燃料に依存しているからだ。それが、既得権益を生んできた。

 再エネを基盤にして持続可能な社会を造るとは、既得権益に対抗することでもある。それには、新しい技術とその応用、新しい立地条件とインフラ、新しい企業構造と社会構造、所有権に対する新しい環境、新しい法的基盤など、新しいものが必要となる。既存の社会構造に抜本的にメスを入れ、既存の社会構造から脱皮する。

市民協同組合が建設した再エネをベースにした集合住宅(写真奥の建物の屋根にソーラーパネルが見える)には、住民が共同で使えるテラス、カフェ、作業場、幼稚園などがある。2019年にベルリンで福島県高校生と見学した時に撮影

 再エネを利用するのに、たとえば市民の協同組合が誕生したりしているのは、その一つの兆候だといえる。でもなぜ、既存の構造では持続可能な社会を実現できないのだろうか。

 それは、電力会社など既存の企業が、権力を握っているからだ。それでは、再エネが化石燃料など既存のエネルギー源と同等に、中立に扱われることはない。化石燃料から得られる既存の利権が優先され、保護されるだけだ。

 それでは、エネルギーシフトは実現できない。新しいステークホルダーが必要になる。既存の構造ではなく、エネルギーシフトにお金が流れるようにすることも求められる。

 再エネはこれまでの化石燃料と違い、どこにおいても、誰にでも使える。石油や石炭には、所有権がある。そこに、利権が集中する。でも再エネに、所有権はない。ぼくたちみんなが、いつでもどこでも平等に、公平に使うことができる。

 それが、エネルギーシフトにおいて市民がアクティブに活動できるチャンスをもたらす。再エネはみんなもの、市民のものなのだ。

 再エネが市民のものだから、再エネへのエネルギーシフトに対して社会的コンセンサスが必要なのではないか。でも、それは誤解だと思う。エネルギーシフトは、一つの利権争いでもある。既存構造と新しい再エネ構造の間で、利権が争われるにすぎない。そこに、社会的コンセンサスは不要だ。

 持続可能な社会造りにおいて、どちらが利権争いに勝つかだけの問題。でも勝者は明らか。既存構造というのは、破壊されるためにある。既存構造が破壊され、新しい構造、新しいエネルギーが出てこない限り、社会は停滞する。社会はこれから、新しいエネルギーである再エネとともに進歩し、豊かになる。

 再エネへのエネルギーシフトは、もう後戻りできない。

 しかし、それには時間がかかる。一時的に二酸化炭素の排出量が増加することが考えられる。一時的に電力料金が上昇することも考えられる。既存構造と既存権益に依存してきた人たちがたくさん失業して、職を失うことも避けられない。

 失業の問題ばかりではない。持続可能な社会造りに向けて、課題は山積みだ。経済的、社会的に大きな問題が発生することも予想される。

 それでも、この劇的な変化に社会的コンセンサスは必要ないのだろうか。ぼくは、必要ないと思う。社会的コンセンサスを求めるには、妥協が必要だからだ。

 持続可能な社会造りにおいて発生する問題は、過渡的な問題だ。必要なのは、いろいろ問題が起ころうとも、社会的な支持を得ることだと思う。社会的な支持とは、市民の支持を得ることだ。

 支持は、社会的コンセンサスによって得るものではない。社会から支持される方法を考える。市民の代表、政府、自治体、経済界、学術界の代表などが集まって、定期的に対話する円卓会議のようなものがあってもいいと思う。社会から支持を得るには、市民参加ということが重要なポイントになる。市民の主張を政策に反映させる枠組みが必要になる。

 円卓会議は、市民が政府と対等に話し合う場だ。市民に、正しい情報が提供される。エネルギーシフトの進捗度について、共同でモニタリングも行う。みんなで、エネルギーシフトに向けて立ち向かう。

 持続可能な社会を造るには、再エネを基盤にする以外にない。ただ再エネを利用すことで、利益がある特定のところにだけ集中し、巨大な利益の流れが固定してしまってはならない。それでは、新しい巨大企業が誕生し、権力を握ってしまう。

 再エネによる利益は、市民に分散させる。それが、持続可能な社会造りの基本原則だと思う。持続可能な社会造りでは、企業利益ではなく、市民の利益を優先する。再エネが、市民のものだからだ。

(2021年6月03日、まさお)

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関連サイト:
ドイツのエネルギー協同組合の事例:エネルゲノ(ドイツ語)

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