社会を変えるのは市民だ

 市民はこれまで、経済活動において企業の経済活動に依存し、そのために労働を提供してきた。その結果、多くの市民は企業の経済活動に依存し、低賃金や過酷な労働条件で働かされ、搾取されるという問題も発生した。

 それについては、この『地道な市民』のシリーズにおいても問題を提起してきた。

 しかし社会は現在、ダイナミックに変化している。労働自体も大きく変化しようとしている。その結果ぼくたち市民は、さらに過酷に働かざるを得なくなっているケースも多く見られる。

 たとえばインターネットの普及で、プラットフォームを使ったビジネスが拡大した。プラットフォーマーの元では、たとえば自転車で食品などの配達を請け負う仕事が生まれている。それは「ギグワーカー」と呼ばれ、プラットフォーム労働が若い世代に広がっている。ギグワーカーは多くの場合、個人事業者として低報酬で仕事を請け負い、社会保険などの保証もない。

 現在プラットフォーマー依存が拡大して、奴隷のように働くギグワーカーが増える傾向がある。

 ただそれとは逆に、ぼくたち市民には今、新しい形で経済活動に参加できる道が拓かれている。その一つが、再生可能エネルギーの利用だ。ぼくたち市民は、たとえば自宅の屋根にソーラーパネルを設置して発電し、その電気を売ることができる。電気自動車の蓄電池が電力システムに統合されるようになれば、電気自動車のオーナーは社会に必要なインフラの所有者となる。

 あるいは、他の市民と一緒に協同組合を設置して、共同で風力発電や太陽光発電を行うこともできる。また再エネの発電施設に出資して、株主になることもできる。再エネの拡大によって新しい高圧送電線が必要になれば、その影響を受ける周辺住民が高圧送電線の建設に共同出資できるようにする。そうすれば周辺住民は、高架送電線による利益の一部を得ることができる。

 これら再エネに伴う市民による新しい経済活動の可能性については、『ベルリン@対話工房』のサイトでも何回も指摘してきた。

 これは再エネとともに、これまで大手電力会社が支配してきた電力市場に市民が参加できるようになったことを意味する。再エネ発電施設は小規模だから、たくさんの資本は必要ない。再エネ発電施設は地方に分散されるので、市民は地元で再エネ経済活動に参加することができる。

 その結果市民は、自分の意思で、自分の望む経済活動に自由に参加できるようになる。企業に支配され、企業の指示にしたがって働く必要もない。市民は経済活動においても、自立することができる。

 再エネとともにすでに、市民発電所や市民電力会社が出現した。たとえばドイツの市民電力会社 EWSシェーナウのことは、日本でもよく知られていると思う。エネルギーを再エネに切り替えるエネルギー転換のプロセスにおいては、市民と地方自治体がこれからますます重要な役割を演じていく。

 それが地方を活性化して再生させ、産業構造を改革するインパクトをもたらす。

ベルリン市街の市民

 市民が自由に、経済活動に参加できるようになるだけではない。市民が労働によって企業から賃金を得るのではなく、経済活動によって得られる利益が市民に幅広く分配されるようになることも意味する。

 現在、気候変動の問題から、二酸化炭素の排出を実質ゼロとする脱炭素化を実現することが急務となっている。その中心となるのは、再エネだ。これからの社会は、再エネによって発電された電力を基盤として構築され、経済活動が行われる。

 それとともに、再エネによって市民が経済活動に参加するチャンスがより大きくなる。そのためには、市民が積極的に自宅の屋根にソーラーパネルを設置するなどして、自分が発電事業者として積極的に経済活動に参加するのだと自覚する必要がある。

 熱供給と交通の分野においても、市民自らが積極的に活動しない限り、脱炭素化は実現できない。市民がいつまで経っても、石油ストーブやガスストーブを使い、ガソリン車に乗っていては、脱炭素化は実現されない。これからの政府の政策では、市民参加を促進する施策が必要になる。そうしない限り、脱炭素化は不可能だ。

 脱炭素化を実現するためには、社会が変わらなければならない。ただ社会が変わることができるかどうかは、市民の手に委ねられているといっても過言ではない。社会で暮らす市民一人一人が、脱炭素化のため、自分には何ができるのかを考え、自らがその課題に取り組む。そうならなければ、脱炭素化はいつまで経っても夢のままで終わってしまうだろう。

 脱炭素化という大きな課題を達成するのは、市民だ。市民一人一人からはじめなければならない。

(2021年10月07日、まさお)

関連記事:
持続可能な社会の中心は市民
再エネはみんなのもの

関連サイト:
ドイツの市民電力会社 EWSシェーナウ(ドイツ語)

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