地方分権化する

 日本ではよく、地方財源の用途が国によって指定されてしまっているといわれる。ただそれでは、地方自治体が独自の判断で行政を行うことが難しい。

 たとえばドイツの場合、原子力発電所の立地自治体は原子力発電所を誘致した時に、原子力発電につながるインフラ整備などのために補助金をもらうことができた。原子力発電所があってもドイツではそれ以外に、これといったメリットはないと思う。地元自治体には、原子力発電所からの営業税による増収くらいしか財政的なメリットはない。これは実際に、原子力発電所立地自治体の市長に聞いた話だ。

 その自治体では、2011年3月の福島第一原発事故後に原発が廃止されることになった。しかし市長は、「廃止か存続か早く決めてもらったほうが自治体としてはありがたい」とクールに答えた。地元で商店などでもいろいろ聞いたが、「原発が廃止されても大きな影響ないね」といわれた。

 ドイツの地方自治体全体には、税収全体の約13%余りが分配されている。国が給付するお金で、地方は縛り付けられない。税収を公平に分配し、地方が独立して行政を行うことができる。それは、ドイツが地方分権化されているからだ。

 ドイツでは、教育と文化は特に地方の高権とされ、国は教育と文化に関して、トップダウン式に行政権限を振りかざすことはできない。だから、国で統一された教科書もない。司法においても、裁判所は地方に分散して設置されている。最高裁判所や高等裁判所は、むしろ地方に設置される。それによって、司法過疎地ができるのを防止している。

 経済においても、大企業の本社は大都市だけに集中していない。ドイツ全体に分散されている。経済界も系列化されていない。ドイツは中小企業中心の経済構造だが、中小企業には独自の優れた技術を持ち、国際的に活躍している企業が多い。中小企業の本社も、地方に分散している。

 だから地方経済が、それぞれ独自の多様な産業構造を呈している。日本のように地方が、発電や土建業など特定の産業だけに依存することはない。

 国は産業力に地域格差が出ないように、地域産業化事業にかなりの補助を出す。ただ実際には、それでも地域差があるのは仕方がない。そこには地理的、歴史的な背景もあり、補助だけでは地域差は解消できない。

 経済規模からすると、農業は経済全体の1%にも満たない。しかし農業はドイツにとってとても重要な産業だ。ドイツは農業国といっても過言ではないと思う。農業はドイツ全国に分散され、有機農業の割合も農業全体の約10%までに増えてきた。ドイツの農業は、地産地消型でもある。農業もこうして、分権化、分散化に貢献する。

 ドイツではここ数年来、若者が大都市に集中する傾向も現れている。しかし日本のように大都市に人口が集中し、大都市が巨大化する傾向はない。こうしたことも、ドイツの社会構造が分散型であることを示している。

 こうしたドイツのような分権型、分散型社会構造では、政治や経済が市民の生活に近いところで判断できるメリットがある。それは、市民が自立して活動しやすい環境の基盤ともなる。その下で、市民が政治や経済の権力と対等となる環境づくりが可能となる。

 市民中心の社会造りをするには、この点が一つの重要なポイントだと思う。

(2021年11月25日、まさお)

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関連サイト:
ドイツ政治教育センターの分権化に関する説明(ドイツ語)

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