トップダウン型社会からボトムアップ型社会へ

 脱炭素社会を実現するには、社会を変えなければならない。その中心になるのは、市民だ。それについてはすでに、前回書いた。そのインパクトになるのは、再生可能エネルギーだ。市民が再エネを通して、自立して経済活動に参加できるようになるからだ。

 再生可能エネルギーの普及によって、市民自らが発電事業者になったり、発電施設や送電網に資本参加できる道が拓けてきた。市民が電気自動車を保有すれば、市民はその蓄電池によって電力システムのインフラの一部を提供することもできる。それについても、本サイトでは何回も書いてきた。

 これは、市民が自らの意思で、経済活動や社会活動に参加できるようになったということでもある。これまで市民は、企業に就職するなどして経済活動を営み、社会活動においても企業の方針に従属してきた。こうした拘束から解放され、市民はより自由に社会の進む方向を自分で決定できるようになる。

 別のいい方をすれば、企業経済をベースとしたトップダウン型社会が市民事業によるボトムアップ型社会に換わるということでもある。

 ただそのためには、それを可能とする法的な枠組みも必要だ。たとえば再生可能エネルギーでは、再エネで発電された電気を固定価格で買い取ることを義務つけた固定価格買取制度(FIT制度)がある。FIT制度によって、市民は再エネに投資して、利益を得ることができるようになった。その点でFIT制度は、トップダウン型社会をボトムアップ型社会に切り替えるパイオニアだったといってもいい。

 トップダウン型社会をボトムアップ型社会に構造改革するのは、利権争いでもある。たとえば再エネによって市民が発電事業に新規参入すると、大手電力の発電ビジネスが縮小する。構造改革が実行されると、既得権益を失う者が必ず出てくる。それとともに、失業者も出る。再エネを普及させるためのFIT制度と送電網整備(統合コスト)によって、電気料金も高騰する。となると、それは社会問題ともなる可能性もある。

 改革は一時的に、経済的、社会的な問題を引き起こす。しかし社会は改革されないと、社会は停滞していずれ将来性を失う。それを防ぐのが、社会改革ともいえる。社会は同じ状態で、永遠に維持することはできない。社会を持続可能にするには、社会を改革することも求められる。

 改革には必ず、どこかで痛みの伴う変化がくる。そのため改革を実現するには、改革に対して社会的な支持を得ることも必要となる。

 それを、「社会的コンセンサス」といったりする。ただぼくはここに、大きな誤解があると思う。「社会的コンセンサス」では往々にして、あることを実現するのにこうしなければならないと決めることだと思われがちだからだ。

 そうではない。「社会的コンセンサス」とは、ある目標を実現することで社会が合意することだけをいう。それがたとえば、脱炭素社会だ。しかし、脱炭素社会を実現する手段を規定してはならない。脱炭素化に向けて多様な試みを促進させ、それぞれを実行して脱炭素社会という一つの目標を達成する。試みが多様であればあるほど、多様な効果が生まれ、目標は実現しやすくなる。

 それは、トップダウン型社会では実現できない。トップダウン型では縦型に指示が出され、目標を実現するまでのすべてのプロセスが規定される。そこには、自主性が生まれない。企業の利益も優先される。それでは企業の都合に左右されるので、時間がかかるどころか、目標を実現できない危険もある。

 ボトムアップ型社会では、目標を実現するための手段やプロセスは、それぞれがアイディアを出して決定すればいい。それによって多様が取り組みが生まれ、それぞれがそのテンポも決める。そこでは、個人の利益も優先される。

 そうすれば、目標はより効果的に実現される。それが、本当の「社会的コンセンサス」だと思う。ボトムアップ型社会では、市民が中心になる。市民にはそれぞれ自分の考え、アイディアがある。それがそれぞれで、あるいは同じ考えを持つ者同士が集まって実行し、実現できるようにする。

 ただぼくは、ボトムアップ型社会において企業がなくなってしまえばいいと思っているわけではない。企業は企業として存続し、企業内が縦割りでトップダウン型になるか、あるいは横のつながりを強化してするかは、企業自身が決めればいい。

ドイツは、放射性廃棄物の最終処分地の選定を住民参加の形で行う。このワークショップでは、市民と最終処分を管轄する政府機関が対等に話し合った

 重要なのは、市民であれ、市民グループであれ、国や企業、科学の専門家などと対等に扱われ、対等に議論できることだ。こうして、市民が市民の視点から発言することを政治や経済、科学、社会が受け入れ、役立てる。

(2021年10月14日、まさお)

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関連サイト:
ドイツの市民電力会社 EWSシェーナウ(ドイツ語)

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