地道な市民

ベーシックインカム

 『地道な市民』ではこれまで、これからの資本主義経済の問題、労働の問題、デジタル化の問題などについて指摘してきた。

 そこですでに、感づいた方もいると思う。ぼくは将来、ベーシックインカムが必要になると思っている。

 この章ではすでに、お金に係ることについて書いてきたので、順番としてはちょっと早いかもしれないが、ベーシックインカムのことをここで取り上げておきたい。

 「ベーシックインカム」とは、基本所得や基礎所得ともいわれる。国が定期的に市民にお金を給付することをいう。生活保護は、所得が少なくて生活に困り、自分で役所に申請してお金を受け取る。それに対してベーシックインカムは、国に生活する市民には誰にでも支給される。個人個人の所得とも関係ない。

 すべての市民に給付されることは、「無条件ベーシックインカム」ともいわれる。

 なぜ、ベーシックインカムなのか。

 その答えは、簡単だ。将来、労働というものがなくなるか、今の労働とは変わったものになっているからだ。現在ぼくたちは、働いて給料や報酬を得るから暮らしていける。しかしこれからは、働く場所がないか、働いてもそれだけでは暮らしていけない人が増えるばかりとなる。

 それはこれまで『地道な市民』において、何度となく指摘してきた。たとえばインターネットや人工知能(AI)の普及で、人間は現在のように働かなくてもよくなる。失業する可能性も高まる。

ドラグストア大手dmの創立者故ゲッツ・W・ヴェルナーの著書『すべての人に所得を(Einkommen für alle)』(Kiepenheuer & Witsch 2007)

 ドイツのドラグストア大手dmの創立者故ゲッツ・ヴェルナーさんは、労働者の3分の1から半分は潜在的な失業者だとして、無条件ベーシックインカムの必要性を説いた。ヴェルナーさんがそう指摘したのは2007年。技術の高度化で、将来失業する確率は、その時以上に高まっている。

 所得に課税されるのは、社会が労働によって所得を得て暮らし、労働が生活の基盤になっているからだ。しかしこれからは、労働と所得を切り離さないと、社会も経済も安定しない。

 この問題は、コロナ禍においても明らかになったはずだ。

 というと、働かない鈍ものがたくさん出てくると批判される。しかし将来は、今のような働く場がなくなるのだ。代わりに、十分な所得を得ることのできない非営利ビジネスやボランティア活動などがどんどん広がる。

 将来の社会像は、IT技術の高度化で人の労働なくして動いていく経済(それをプログラミングするのは人は別として)と、人が所得を得ないで活動して生まれる経済が並行して構成される。その時、人はどうしてお金を得て生きていくべきなのか。それが、重大な課題となる。

 この並行する2つの経済をつなげるのが、ベーシックインカムとなる。

 ベーシックインカムといえば、簡単に移行できるように感じてしまうかもしれない。しかしベーシックインカムが成り立つようになるまでには、社会システムからお金のシステム、働くシステム、課税システムなど根本的に改革しなければならないことがたくさんある。労働に対するぼくたちの頭の切り替えも必要だ。

 そのためには、長い時間がかかると思う。

 たとえばドイツには、『Mein Grundeinkommen(わたしのベーシックインカム)』という市民団体がある。同団体はべーシックインカムを促進するため、寄付金を資金源にして1年間月1000ユーロ(約14万円相当)のベーシックインカムを得ることのできる人を登録者の中から毎月抽選で25人選び、べーシックインカムの効果と影響を追跡している。

 すでに今、こうした事前の試みも大切になっている。

(2023年3月09日、まさお)

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関連サイト:
毎月ベーシックインカム受給者を抽選で選出しているドイツのサイト
ベーシックインカムとは?メリット・デメリット、実現の可能性を解説(朝日新聞SDGsACTION)

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