事件に巻き込まれる危険が増大しているが。。。

 一昨日の2022年6月8日午前、ベルリンの繁華街で小型乗用車が歩道に突っ込み、歩行者をはねる事件が起こった。車はさらに車道に戻り、そこら少し離れた店舗に突っ込んで止まった。現場にいた市民らが運転手を拘束、警察に引き渡した。

 現場は、ベルリンの観光名所のひとつカイザー・ヴィルヘルム記念教会のある真横。観光客も多いところだ。

 地元警察の発表では、1人が死亡、負傷者は30人以上に上る。まだ7人が、生命に危険な状態にあるという。犠牲者の多くは、ドイツ南西部のヘッセン州から卒業旅行にきていた先生と生徒。死亡したのは、引率していた女性教師だった。

 当初は、事故なのか、故意の事件なのかはっきりしなかった。しかし事件翌日、検察当局は事故性を否定。故意によるものだと断定した。容疑者には、被害妄想を伴う重い精神疾患の兆候があるという。容疑者は治療施設に送致された。

 実は事件当日、ぼくは事故現場のすぐ横にある銀行にいくことにしていた。10時過ぎに自宅から歩いていき、事件の起こった10時半頃には、現場にいるはずだった。ただ出かける直前、そんなに急いで銀行で用件を済ませる必要がないことが判明。ぼくは、銀行にはいかないことにした。

 自宅にいるとやたら、サイレンやヘリコプターの音が聞こえる。どうしたのだろうと思っていた。そのうちに、ニュースで事件を知った。もし銀行にいっていたら、事件に巻き込まれていたかもしれない。

 ただその時は、それでゾーとしたわけではない。むしろすぐに、5年半前のあの事件を思い出した。あの事件とは、ベルリンではじめて起こったテロ事件のことだ。

 今回の事件現場は、2016年12月に大型トラックがクリスマスマーケットに突っ込むテロ事件のあったすぐ横だった。あの時、13人が死亡している。自宅から歩いていけるくらいのすぐ近くで起きたテロ事件。それも寄りによって、たくさんの人の集まるクリスマスマーケットがテロの標的となった。

 ぼくは事件を知って、ことばにならなかった。背筋が冷たくなるのを感じた。事件後、友人や知人と話しても、みんながたいへんショックを受けているのがわかった。あれ以来、ベルリン社会はテロに怯えている。トラウマ状態だと思う。

 今回の事件では、その当時のトラウマからより恐怖に思った市民も多いと思う。

 テロ事件の起こった現場のブライトシャイト広場は、あれ以降、年中頑丈に防護されている。それによって、安全になったように見えるかもしれない。しかしそれで、本当に安全だろうか。

2016年のテロ事件では、この辺りから大型トラックがクリスマスマーケットに突っ込んだ
テロ事件のあった広場は、四方八方頑丈にガードされている
写真奥が、今回車が突っ込んだ歩道。それに対して、その横のテロ事件のあった広場(写真手前)は、頑丈にブロックされている

 防備は、テロ事件によるトラウマの現れでもある。今回の暴走事件は、厳重に防護された広場の真横にある歩道で起こった。歩道は、全く無防備だった。

 だからといって、繁華街の歩道をすべて頑丈に防護し、日常の安全を優先すべきなのか。そうなると、街がオープンでなくなり、自由感がなくなる。それによって、車が突っ込んでくるのは防護できるだろう。でも、自爆テロや銃撃テロには無防備だ。意味がない。現在その危険も、増大している。

 そう思うと、ぼくたちはいかに無防備な状態で暮らしているのかと感じる。気絶しかねない。

 あるいは、テロ行為や暴力の危険に対抗する手段として、街のあらゆるところに監視カメラを設置し、スマホを使って市民の位置確認することによって、完全な監視社会をつくるべきなのか。

 ぼくは、物理的にテロに頑丈な街つくりをすることにも、監視社会をつくることにも賛成しない。それでは、街が自由でオープンであるべきだという価値観に反する。テロの危険があっても、その危険に屈することなく、ぼくたちの民主的な価値観を守ることのほうが大切だと思う。

 同じ予算を使うなら、頑丈さや監視に投資するのではなく、ソーシャル活動や格差をなくすための対策に投資したい。そうして自由とオープンさを求める価値観を貫きたい。時間がかかるだろう。でもぼくには、そのほうがテロ対策のように思える。

2022年6月10日、まさお

関連記事:
ぼくたちは加害者だ
ベルリーナールフト2017年12月、クリスマスマーケット

関連サイト:
2016年にテロ事件の起こったブライトシャイト広場(ベルリン市の公式サイトから。ドイツ語)

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