電話機のない電話番号

 ぼくが小さい時に育った富山県射水郡大門町柳町。しかし柳町は、もう存在しない。しかし旧柳町に接していた大門神社に、ただ一つ曾祖父の名前の入った石碑があるのを見つけた。

 それが、旧柳町周辺に残るわが家のただ一つの痕跡だ。

 ぼくはその他に、実際には目に見えないものも保持している。それは、祖父母が使っていた電話番号だ。

 ぼくの育った土蔵造りの家の中に、電話ボックスがあった。座敷横の隣の部屋が寝室だったが、その押し入れの横に四角い電話ボックスがあった。そのドアの窓ガラスには、「電話三五番」と書かれていた。

修復してきれいになった電話ボックスのドア

 これは、大門町において電話がはじめて開設された時、電話番号申請後、35番目に割り当てられたことを意味するはずだ。当時柳町町内で電話を持っていたのは、わが家だけだったと見られる。こうして電話ボックスに電話機を入れることで、隣人も電話を使えるようにしてあったのではないかと想像する。

 当時使っていた最初の古い電話機は、ぼくの知っている限り、骨董品として残っていた。ぼくはその古い電話を見たことがある。ただ土蔵造りの家が解体される前に家中探してしても、電話機はどこにも見つからなかった。たいへん残念だ。

 ぼくが小学校に通っていた時には、電話ボックスはもう使われていなかった。ガラス窓に内側から紙が貼られ、物置になっていた。

 電話ボックスのドアは当時も、かなり傷んでいた。それを家が解体される前に取り外し、きれいに修復してもらった。その後に立て直した高岡市の実家では今、それを使っている。使っているといっても、記念のデコレーションのようなものだといってもいい。

 さて35番の電話番号だが、それは最終的に、0766-52-0035となった。

 その電話番号が他のユーザーに渡らないように、電話サービスを解約しないで、中断してもらっている。そうすれば、電話番号は保持できる。

 そのためにぼくは、毎月基本料金を支払続けている。基本料金は、2カ月ごとに2カ月分の基本料金が口座から引き落とされる。その度に口座には、0766-52-0035の電話番号が記帳される。

 もう使うことのない電話番号。たとえ中断したサービスを再開させても、この電話番号ではなく、新しい電話番号が割り当てられるという。この電話番号はもう、使うことができない。

 その意味で、無駄な出費だともいえる。

 しかしこの電話番号は電話開設当時を記録しており、まだ残しておきたい。他のユーザーには渡したくない。それに加え、土蔵造りの家が意味のない堤防整備によって強制的に解体されたという憤りもある。それだけに、何か家のものを残しておきたいという思いも強い。

 ぼくはこうして、柳町の家で使っていた電話番号を電話機のないまま保持している。

2022年12月05日、まさお

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関連サイト:
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