ベルリンは高齢者と障害者にやさしくない
自分らしく死ぬために
数カ月前、日本からきたお客さんとポツダムにいった。その時、「ポツダムの歩行者の青信号は長くていいですね」といわれた。
ぼくは、ベルリンで歩行者の青信号が短い問題について書いたが(「歩行者の青信号は短すぎる」)、ベルリンからすぐ横のポツダムではそうでもないことには気づいていなかった。
そういわれてみると、確かにそうだ。ベルリンと違ってポツダムでは、ゆったりした気持ちで横断歩道を渡ることができる。歩行者の青信号が短いのは、ドイツ全体の問題ではなく、ベルリン特有の問題だったのか。
ベルリンの横断歩道は青信号の時間が短すぎて、高齢者や障害者にはたいへん渡りにくい。ノロノロしていると、信号を待つドライバーに「このバカが何してるんだ」というゼスチャーをされることもある。
これでは、ベルリンが高齢者や障害者にやさしいとはとてもいえない。
公共のバスに乗っている時にも、何ということだと思うことがある。ベルリン市内を走る公共バスでは降りる時、バスが停車する前にドアまでいってドアが開いたらすぐに降りる乗客がほとんどだ。これは、運転手横の一番前のドアは原則乗車用だが、乗車ドアと降車ドアが特別区別されていないからだ。ドアが開くと、降りる人が降りるのを待たずに、空いている椅子を求めてすぐに入ろうとする人も多い。そのため、事前に降りる準備をしてドアが開くとすぐに降りたほうが降りやすい。降りる乗客が降りるのをドアの脇で待つ乗客も少ない。
そのためドアの前では、乗り降りする乗客がお互いによけ合って乗り降りすることも多い。こういう状況では、高齢者や障害者にはバスの乗り降りが難しいし、危ない。
ぼくたちには、里親に近いことをしている知的障害と身体障害のある女性がいる。ぼくが女性と一緒に外出する時は、できるだけ公共交通を利用することにしている。そのほうが、女性がからだを動かすし、社会に接することもできるからだ。
その女性と一緒にバスに乗っていた時だった。安全を考えてバスが停車してから女性を席から立たせて降りようとした。しかしバスの運転手が車内放送で、なにノロノロしているのかとど怒鳴りつけるのだ。運転手は、降りる時はバスが止まる前に降り口までいって待っているものだと主張する。
冗談じゃない。障害者がそんなことをしたら、危なくてしようがない。ぼくは運転手に、障害者にそんなことさせたら危ないだろうと抗議したが、運転手は自分のいっていることが正しいのだと、謝りもしなかった。
女性は当時のことを思い出すたびに、興奮して話すようになった。その時に侮辱されたことがもう脳裏から離れないのだ。
障害者の友人はバス車内で転んで頭から血を出し、救急車で病院に運ばれている。ぼくはバスの走行中に車内で倒れた高齢者を何回も見ているが、高齢者の友人は急ブレーキで車内で倒れ、首の骨にヒビが入る重症を負った。今も首をまっすぐ伸ばすことができず、顔は下を向いたままだ。
これは、運転手の運転が荒いのと、運行時刻を策定する時に十分な停車時間を想定していないからだと思う。停車してから席を立って降りる日本のバスとは大違いだ。
ぼくも地下鉄に乗っている時、ブレーキが強すぎて自分のからだを支えきれず、手すりから手が離れて吹っ飛んだことがある。幸いその時は、何事もなく済んだ。
バスや地下鉄だけでなく、ベルリンを走る公共交通では運転が荒い。乗客のこと、特に乗客に高齢者や障害者が立っている可能性があることをまったく考えていないからだと思う。
車内が混雑することも十分に想定されてないので、乗客がつかむ吊り革もほとんどない。手すりをつかもうとしても、手すりが近くになかったり、あっても高すぎてつかめないことも多い。乗客も車内が混雑することに慣れていないので、混んでいる時にはドアの周りに立つ乗客も多い。混雑していても乗客が奥に入ろうとしないので、ドアの周りがそれだけ混んでしまい、手すりをつかめるところまで行けない時もある。
高齢者・障害者優先席は設けてあり、混んでいる時には席を譲ってくれる乗客も多い。しかし、それだけでは不十分だ。ベルリンの公共交通では、乗客に高齢者や障害者がいることを想定して十分な配慮がされていない。高齢者や障害者がとても危ない状況に置かれているといわなければならない。
ベルリンのSバーン(都市交通)や地下鉄では、ようやくほとんどすべての駅にエレベーターやエスカレーターが設置されるようになった。しかしエレベーターやエスカレーターがあっても、それが故障していて使えないことも多い。メンテナンスや修理にもどうしてと思うくらいに、長い時間がかかる。数日どころか、何週間、何カ月もかかる。それでは、歩行に問題のある高齢者や障害者は公共交通を使うなといっているのと同じだ。
ベルリン交通公社は地下鉄でのこの問題に対処するため、ようやくエレベーターとエスカレーターの動いていない駅から高齢者や障害者をエレベーターないしエスカレーターが動いている最寄りの駅に輸送するための小型バス輸送サービスをはじめた。

数カ月前には、エスカレーターが何10台もある中央駅で、ほとんどのエスカレーターが故障して使えなくなったことがある。エレベーターは動いていたが、中央駅の構造上、エレベーターで乗り降りするにはとても長い時間がかかる。
中央駅は長距離列車の停車駅なので、大きな荷物を持っている乗客が多い。それに加えて、乳母車や自転車と一緒の人も多いので、エレベーターの前にはいつも長い行列ができる。普段でもそういう状態なのだから、エンスカレーターが故障した時は混乱状態だった。
中央駅では数カ月経った今も、修理中のエスカレーターがまだ何台もある。動いていないエスカレーターでは、ようやく乗客のために重い荷物を運ぶ若い職員が配置されている。すぐに思いつかないのか、そういう人材が配置されるまでもたいへんな時間がかかっている。
問題が起こった時に乗客の負担を考えて素早く対応できないのは、ドイツ全体の問題だと思う。その中でも、ベルリンは最悪ではないか。
こういう状況では、ベルリンの公共交通は高齢者や障害者にとって信頼して安全に移動できる交通手段ではない。ベルリン社会は高齢者と障害者には生活しにくいといわなければならない。高齢者と障害者にやさしい町づくりがされていない上、高齢者と障害者に気配りがないからだ。
これが、社会福祉国とも見られているドイツの現実だ。紙に書かれていることと現実が一致しないドイツの典型的な事例ともいえる。
ぼくはこういうベルリンで自分らしく生きていくには、高齢になっても足腰を鍛え、頑丈なからだを保持していくしかないのかなと思っている。
2026年5月22日、まさお
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関連サイト:
ドイツ鉄道駅サイトのベルリン中央駅のページ(ドイツ語)
(列車の発着状況やエレベーター稼働の有無などの情報がある)