ドイツでは、薬に関してインフォームドコンセプトがない

 ぼくには既往症がない。だから、薬は何も飲んでいない。不治といわれる黄斑変性症も、食事と生活スタイルを変えることだけで治した。それについては、本サイトで連載してきた。さらにそれをまとめて、電子書籍『黄斑変性症 ぼくは自分で治した』として出した。

 ぼくの家族には、高コレステロール症が多い。遺伝性高コレステロール症と見られる。だがぼくはそのために、薬を飲んだことはない。食事に気をつけ、定期的に運動することで対応してきた。

 それに対し、母は緩和ケアに入って薬を減らしてもらう前も、毎日15種類以上の薬を飲んでいた。ぼくが後見人をしていたベルリンの友人も、10種類くらい薬を飲んでいた。製薬産業の盛んな日本とドイツでは、こうしてたくさんの薬を飲むのが自明の理となっている。

 緩和ケアではそれに、モルヒネなどの鎮痛剤とその副作用を抑える薬が加わる。母は必要ない薬を止めてもらったが、それでも今はまだ、10種類あまりの薬を毎日飲んでいる。

 今回、ベルリンの友人と母の緩和ケアを体験してみて、薬の管理において日独で大きな違いがあることがわかった。特に薬に関してインフォームドコンセプトがあるかどうかが、根本的な違いだと思う。

 母が緩和ケア病棟から退院する前、緩和ケア病棟担当の薬剤師から、薬の一覧表が渡され、薬の説明があった。薬は10種以上もあった。何とまあ、まだたくさんの薬を飲んでいるなあと呆れた。退院した後自宅で、たくさんの薬を飲ませるために管理しないといけないことを考えると、ぞっとした。

 薬の一覧表には薬毎に、薬の写真が入っていて、飲み方、副作用が簡単に書かれている。薬は検査入院した大学病院で処方されていた薬が、そのまま処方され、それに一部新しい薬が追加されていた。

 緩和ケア病棟から退院する時、退院後1週間分の薬が渡される。その後は、訪問医から処方箋をもらって薬を買わなかればならない。訪問医は基本的に、容態に変化がない限り、緩和ケア病棟で飲んでいた薬と同じ薬を処方する。処方箋によって薬局で買った薬は、それぞれ白い封筒に入っている。封筒には、その薬を飲む量と飲む時間が記載されている。半錠飲む薬は、すでに半分に割られ、それぞれがビニールでパッキングされていた。

 これは、昔病院で薬をもらっていた時とまったく変わっていないなあと思った。そのおかげで、母のために薬を管理するのはとても楽だった。助かったと思った。

 それに対し、ベルリンで緩和ケアしていた友人の場合は、まったく患者のことが考えられていないと思った。

 友人が検査入院した大学病院から退院した時、薬情報は、大学病院が担当の緩和ケア医宛てに書いた大学病院推薦の薬の一覧にしかない。それもそこに書いてあるのは、薬の名前だけだった。患者を訪問する緩和ケア医が退院と同時に、その推薦を基盤にして新しい処方箋を出す。緩和ケア医が大学病院と異なる鎮痛剤を処方していたのは、すぐには気づかなかった。すこし経ってからだった。

 大学病院からも緩和ケア医からも、薬の説明は一言もなかった。

 緩和ケア医の処方箋から在宅ケアする看護・介護チームが、いつも一緒に緩和ケアサービスをしている薬局に薬を注文。薬はその日のうちに、薬局が友人宅に届けてくれる。看護・介護チームがそれを仕分けをした。その後薬は、看護・介護チームが毎週1回、1週間分の薬を曜日と朝昼晩に分割されている薬ケースに仕分けしておいてくれる。患者はそこから曜日毎に、当該曜日の小ケースを取り出して、朝昼晩に分けられた薬を飲む。

ドイツの薬局では処方箋があっても、薬はこうして1パック毎に購入する。飲み方は主に、薬の処方箋を出すホームドクターから口頭で伝えられる。あるいは、パックに入っている説明書から後で自分で確認するしかない

 その点では、薬の管理はしっかりしていた。しかし、薬それぞれが何のための薬で、副作用は何かに関する情報はどこにもない。薬は、1パック毎に届けられる。日本のように処方箋に書かれた量だけ、薬をもらうわけではない。薬を1パック飲んでしまうと、新しい処方箋をもらう。薬を半錠に割る必要がある場合、薬を半分に割るのはパックから仕分けする看護・介護チームだった。

 ぼくは唖然とした。これはまずいと思った。これでは、薬毎の効用がつかめない。その副作用もわからない。ぼくはすぐに、薬毎にパックに入っている説明書を箱から取り出して読んだ。薬は10種類余り。その薬が何のためのもので、主な副作用は何かをそれぞれチェックした。ただ説明書からは、何のためにこの薬が処方されたのか、よく判断できないものもあった。

 緩和ケアが必要な患者や高齢な患者は一体誰が、薬のパックに入っている説明書を読むだろうか。説明書の文字は小さい。情報がありすぎて、読みはじめてもすぐに諦めるのがオチだと思う。それでは患者に、薬の情報は何も伝わらない。

 ドイツでは、薬を処方して出せばいい。それ以外は、患者の責任としか考えられていないかのようだ。患者のために薬に関する情報を提供し、薬について知ってもらい、納得しておいてもらおうというインフォームドコンセプトが、どこにも感じられない。これは、まったくもってひどいと思う。

 日本にはさらに、「おくすり手帳」というものがある。薬局で入手でき、飲んでいる薬の情報が次々に記帳されていく。だから今飲んでいる薬は、誰にでもすぐにわかる。

 それに対してベルリンの友人は、自分の飲んでいる薬の一覧を自分でまとめてつくっていた。それを、新しく診察してもらう医師のところにいく毎に持参していた。ドイツでは、自分で飲んでいる薬の情報は自分で管理して作っておかないと、医師間で共有できない。

 友人は高齢でも、それを自分でできたからよかった。認知症の患者や、自分ではもう薬の一覧を作成できない高齢な患者は、どうすればいいのだろうか。そういう患者は自分では、薬の管理もできない場合が多い。

 そういう場合ドイツでは、薬投与サービスをつけてもらうことができる。介護度がまだ低い段階でも、そのサービスを受けることができる。ただそれも、自分でそういうサービスがあることを事前に知っていればいいが、知らないとわからない。医師がこの患者には薬投与サービスが必要だと診断できればいいが、そうでないと、薬が処方されても患者が自分で管理して薬を飲む保証はない。サービスを受ける申請はもちろん、患者が自分でしなければならない。

 日本だったらそれは、ケアマネージャーがすぐにしてくれるはずだ。

 こうして見るとドイツでは、薬の管理が患者任せとなっている上、患者が管理しやすいようにも工夫されていない。インフォームドコンセプトがないので、自分の飲んでいる薬について何も知らない患者も多いと思う。

 これが、薬に関するドイツの実情だ。

2023年1月30日、まさお

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関連サイト:
ドイツ薬剤師部の品質管理ガイドラインにある薬情報ガイドラインによると、患者に薬の情報を提供したり、薬に関してアドバイスするのは、薬局・薬剤師の義務となっている(ドイツ語)

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