ドイツ最先端の大学病院にインフォームドコンセプトはあるのか
母の場合、胸水が急激に増えたおかげで、抜き取った胸水から病理検査ができるようになった。胸水ががんによるものなのか、あるいは感染症などその他が原因なのか。はっきり確定しなければならない。検査結果がでるまで、1週間以上かかった。
その結果、胸腺がんによる胸水とわかる。遺伝子の変異がないことも確認された。これで、遺伝子療法で治療する可能性はなくなった。すでに覚悟はしていたが、緩和ケアをしながら看取る以外に選択肢はなかった。
検査結果が説明される時、ぼくはベルリンからビデオ通話で主治医の説明を聞いた。ぼくが「年を越せますか」と主治医に聞くと、医師は困ったような顔をして「後数週間か、せいぜい数カ月だと思います」と答える。
ぼくはこの時、驚いたというか、とても感心した。
主治医は30歳代と見られる。若いにも関わらず、患者と患者の家族の気持ちを考えながら、とてもわかりやすく説明してくれる。気配りが行き届いていたというか、人間味のある丁寧な対応をしてもらったと思っている。そういう環境で、何の迷いもなく緩和エアの選択をできたと思う。
インフォームドコンセプトがしっかりしていることに、驚かされた。それは、ぼくが後見人をしていたベルリンの友人の時とはまったく異なった。
ベルリンの友人の場合、本人にどういう検査をするのか、検査の概要を事前に何も知らせないまま、毎日毎日検査が進んでいった。友人に休んでいる暇はない。患者の容態を顧みないまま、次から次に検査が続けられた。友人からは何回もLINEで、ドイツ語の検査の説明書と承諾書が送られてくる。友人から、これは何の検査かと聞かれたこともあった。
患者と医師とのコミュケーションがまったく、取れていなかった。それでいて、後見人にも検査方針は何も伝えられない。後見人の存在は無視されていた。
生体検査があるとわかった時、ぼくがLINEで生体検査のことを日本語で説明した。ぼくは生検する必要はないと思うけどと伝えたが、最終的には自分で判断してくださいといった。検査が続いて体力が落ちていたことから、友人の生体検査は延期しなければならなくなる。それに代わり、生検の前に今度は、胃カメラ検査と大腸カメラ検査が入る。
その間に友人は、化学療法(抗がん剤)をするために検査していると、医師から片言いわれたようなことを伝えてきた。「あなたはまだ若いから」といわれたという。ぼくは、冗談じゃないと思った。友人は88歳と高齢。衰弱して食欲もない。体力もかなり落ちている。その状態で、化学療法には耐えられない。
友人の意向や容態をまったく配慮していない。治療するためだけに、検査を駆け足で進めているとしか思えなかった。
胃カメラ検査のあった日の夕方、友人は食事はできない、もうくたくたになったとLINEでいってきた。翌日が大腸カメラ検査なので、また食事ができないと、友人はこぼした。ぼくは、もう少しで検査が終わるからと慰めるしかなかった。
翌日朝早く、友人からLINEで電話がくる。どうしたのかと思った。友人はもう泣きそうな声だった。もうくたくたで、大腸カメラ検査なんかできないという。何か少しでもいいから食べたい。そうしないと、もうもたないといった。
ぼくは友人にすぐに看護師を呼んで、「自分には今日、大腸カメラ検査をする元気はない。早く何か食べたいといいなさい」とアドバイスした。ドイツ語で何というべきかも、伝えなければならなかった。それだけ、友人は消耗し、混乱していた。
看護師には伝わった。すぐにパンを持ってきてくれたという。
その後少しして、担当の医師と日本語通訳が病室にくる。そしていきなり友人は、末期がんであることを伝えられた。そして、どうするかという。友人は覚悟したように、もう何もしませんと答える。
こういうタイミングで、がんの宣告をするとはどういうことなのか。後見人に連絡しないで、後見人の立ち会いもないまま、がんを宣告したのはどういうことなのか。インフォームドコンセプトなど、まったくないではないか。
ぼくは友人から、がんの宣告を受けたことを聞いた。がんの疑いがあるのは、ホームドクターの送り状・紹介状からわかっていた。しかし、こういう伝え方はない。検査のやり方といい、患者の意向や容態をまったく無視して、医師の考えだけで先に進んできた。
これが、ノーベル賞受賞者を何人も出している世界有数の優秀な大学病院のやることなのか。患者を無視して、治療の方針は決められない。それは、当たり前のことだ。それとも優秀な病院故に、何でもしてもいいとでも思っているのか。
患者は、病院と医学の実験台ではない。生身のからだだ。
2023年1月23日、まさお
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関連サイト:
ベルリンのシャリテー大学病院のサイト(ドイツ語)
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