若い粉職人は何を失ったのか?

まさお:シューベルトの歌曲集「美しき水車小屋の娘」からはじめて、水車小屋がなぜ、必要になったかについて考えてきた。人類は火を利用することで、植物や動物の肉に火を通して、食べることを学んだ。農業することで、穀物をたくさん収穫できるようにもなった。たとえば麦がたくさんできると、麦はもう人間だけでは製粉できないね。水車を機械として利用することで、ぼくたちはたくさんの麦を製粉できるようになったのだ。
 人類はこうして進歩し、人口を増やしていった。これが、人類がエネルギーを使うことを学んだことになるのは、すでに見てきた通りだ。

タロウ:それ、わかったら、早く先にいこう!

ハナコ:タロウったら、せかせないの。急いでしまうと、何か見逃しているかもしれないでしょ!

ま:ハナコ、いいこというね。ちょっと遠回りしてきたが、ここでまた「美しき水車小屋の娘」に戻りたいんだ。
 「美しい水車小屋の娘」は、若い粉職人が水車小屋にいた娘に恋をしたけど、実らずに小川に入って自殺してしまう物語だった。ここで青年は、何を失ったのだろうか。自殺したのだから、命を失ったね。でも、それだけだろうか。

ハ:恋をした娘も失ったことになるのかしら。。。

タ:青年は、娘に相手にされなかったのではなかったかな。片思いでしょ。それでは、娘を失ったとはいえないと思うけど。

ま:タロウのいうことは、よくわかる。でも青年が片思いをした気持ちも考えてみよう。片思いでも、青年にとっては恋だったんだ。その恋は実らなかったので、青年は失望して、自分の命を奪ってしまった。
 きみたちにはまだちょっと早くて難しいかもしれないけど、それは青年がこどもから大人になる一つのプロセスでもあるんだ。青年が生きていれば、失恋してもそこから何かを学んで、大人になっていたんだと思う。その時期を思春期ともいうんだけど、青年はそれを乗り切れなかったんだね。
 そう思うと、青年は純粋な気持ちを抱いていた思春期も失ったといえないかな。

ハ:わかるような気もするけど、わかんないわ。

タ:ぼくには、まったくわかんない。

ま:きみたちはまだこどもで、そこまでいっていないので難しいだろうね。
 恋の話になってしまったけど、ここからが問題だ。エネルギーという観点からすると、青年はもう一つのことを失ったと思う。これは、歌曲集「美しき水車小屋の娘」が19世紀前半という時代にできたことと、関係しているんだ。
 その頃、社会は大きな変化を体験した。その社会の変化は、どうして起こったのだったかな。学校で習わなかった?

ハ:19世紀になってからということ?

ま:そうだね。でも実際には、その前の18世紀後半からだけどね。その頃から、われわれは何を使い出したか考えてごらん。

タ:ひょっとして電気とか、蒸気機関車ということ?

ま:おお、いいね。ということは、その時何が起こったのだった?

ハ:わかった。わかった。産業革命だ。

産業革命がはじまると、国内ばかりでなく、植民地にも工場ができはじめる

ま:そうだ。産業革命だ。それでは、産業革命が起こったことで、若い粉職人は何を失ったのだろうか。さっき、水車が機械だといったことを思い出してごらん。

ハ:ええ、それどういうこと?

タ:よく、わかんないな。

ま:産業革命によって、いろんな機械がでてきたんだ。ということは、いろんなことを人間に代わって、機械がするようになったんだ。粉ひきもそうだね。ということは?

ハ:ああ、そうか。粉職人は必要なくなるってこと?

ま:そうだ。その通り。産業革命とともに、青年が粉職人として働かなくても、機械が製粉してくれるようになったんだ。そうして、青年は職人としての地位も失うんだね。それは、人間がエネルギーを使って機械を動かすことを学んだからだ。
 それについては、もっと話さないといけないんだけど、ここまでかなり難しかったと思うので、今日はここまでにしようか。

タ:わーい、助かった。

2021年8月04日、まさお

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水車小屋が必要になったのはなぜ?
美しい水車小屋の娘

関連サイト:
シューベルトの歌曲集「美しい水車小屋の娘」(歌:フリッツ・ヴンダーリヒ(テノール))

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