東電は破産してしまっている

福一の汚染処理水問題を考える(3)

 ぼくは、事故を起こした福島第一原発の運転者である東京電力の位置付けをはっきりさせるべきだと書きました。これは、東電を今後どうするべきか、できるだけ早く明確にすべきだということでもあります。

 福一事故に対する損害賠償は現在、国から東電にそのための資金が提供されています。国がこれまで原子力発電を推進してきた社会的な責任から、損害賠償交付金を供与すことでその負担を他の原子力事業者とともに肩代わりしています。

 東電への損害賠償交付金は、2019年度末(2020年3月末)の決算で14兆円を超えています。この額は、これまで政府が閣議決定した交付金枠13.5兆円を超えてしまいました。

 13.5兆円交付金枠の内訳を見ると、損害賠償費用が8兆円、除染費用4兆円、中間貯蔵費用1.5兆円となっています。

 しかしここで、疑問が起こります。

 本来、損害賠償交付金は原子力損害被害者を救済するものです。でも除染費用と中間貯蔵費用は、被害者を救済する費用になりますか。

 ぼくは、ならないと思います。除染費用と中間貯蔵費用は、原発事故を処理するための費用です。その意味で、東電が直接負担しなければなりません。

 除染費用は実際にはむしろ、避難区域を解除して避難者の帰還を促すために使われてきました。避難区域が解除されると、避難者に対する損害賠償が打ち切られます。除染費用と中間貯蔵費用は、被害者を救済するどころか、被害者の損害賠償をできるだけ少なくするために使われてきたといっても過言ではありません。

 事故炉の処理費用に関しては、事故を起こした責任から、東電が直接負担しなければなりません。しかしこれでは、国が事故処理費用も一部肩代わりしていることになります。

 ぼくはこれが、事故原発敷地以外で汚染された地域が放射線管理区域に指定されなかったことと関係しているのではないかと思えてなりません。この問題については、前回問題提起しました(「汚染処理水と汚染土は放射性廃棄物」)。

 東電にとり、事故処理費用はたいへんな重荷です。それが、約8兆円になるといわれます。でも実際には、その額をはるかに超えると思います。その中でも、汚染処理水の処分費用もかなりの負担です。その負担を軽減するには、汚染処理水をできるだけ安く処分しなければなりません。

 汚染処理水を処分する根拠として、廃炉によって排出される放射性廃棄物を保管するスペースを確保しないといけないからといわれます。でも汚染処理水を海洋投棄すれば、風評被害が起こります。それによって、地元漁業業者に損害が発生します。

 その損害は被害者の救済として、損害賠償の対象になります。国が肩代わりするということです。海洋投棄によって汚染処理水の量が減れば、東電はその負担も軽減できます。

 汚染処理水の海洋投棄は東電にとり、一石二鳥だといわなければなりません。汚染処理水の処分方法として一番安く上がる海洋投棄が選択された背景には、こうしたコスト負担の問題があったのではないかと憶測したくなります。

 東電は、国からの損害賠償交付金を特別利益として会計処理し、バランスシートでは負債として取り扱いません。それによって、東電が会計上存続できるようになっています。

 でもこの莫大な額からわかるように、東電は実際には、福一事故によって破産してしてしまっています。国の肩代わりする資金によってかろうじて存続しているにすぎません。会計上のトリックによって生き延びているだけです。

 もちろん、国の肩代わりする資金が返済される見込みはありません。東電は実質的に、国有化されています。国が不良債権を持っているのと変わりません。

 日本では昨年2020年、容量市場がスタートし、4年後の取引のための入札が行われました。容量市場とは、電力をこれまでのように電力量(kWh)で取引するのではなく、電力の供給力(kW)を取引する市場です。

 容量市場は一般的に、将来発電所を建設する資金を集めるための市場ともいえます。でも日本型の容量市場はそうではなく、既存発電所に資金を集めるためのメカニズムだといっても過言ではないと思います。

 発電事業者は発電さえ続ければ、容量市場において新たに資金を調達できる方法を得ました。事故処理の負担に苦しむ東電にとっては、願ってもないメカニズムです。

 ぼくは、どうしてそこまでして東電を存続させなければならないのか疑問です。それが、日本の電力システムを改革するのを妨げ、日本が国際的に取り残される弊害を生んでいるとしか思えません。

2021年2月01日、まさお

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関連サイト:
経産省のALPS処理水サイト
東京電力のサイト

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