民主主義における原発ゼロ政権と原発ゼロ法

 前回、ドイツがどのように脱原発への道筋を歩んできたのか、その経緯について書きました。ただそこでは、一つのことを書いていません。

 それは、脱原発を進める政権が必要だということです。ドイツでは当時、社民党と緑の党による中道左派政権でした。前回も書いたように、ドイツで今段階的に脱原発を進める基盤になっているのは、この中道左派政権の下、2000年6月に政府と電力業界が脱原発で合意できたからでした。

 社民党と緑の党が総選挙(連邦議会選挙)に勝ったのは、1998年秋でした。それによって、中道左派のシュレーダー政権が誕生します。選挙前、緑の党は政権に入る場合に備え、脱原発のシナリオを描き、脱原発法案のようなものを作成していました。

 政権に入ると、脱原発法案をベースにして、緑の党のトリティン環境相とフィッシャー外相を中心に、電力業界と交渉を開始しました。しかし交渉は、進みません。最終的に、シュレーダー首相自らが電力業界と交渉することで、脱原発で合意できました(当時の脱原発合意内容)。

 ここでポイントになったのは、脱原発法によって電力会社の資産である原発を国家権力によって没収する形になってはならないということです。没収となると、国に対して、電力会社がとても高額な損害賠償を請求してくる危険があります。

 それを避けるため、シュレーダー政権は電力業界と脱原発で合意する形を選びます。

 その合意を下に、原子力法が脱原発法に改正されます。脱原発法は2004年に施行しました。当時、たとえその後に政権交代しても脱原発法が改正されて、原発促進法に変わらないようにいろいろ配慮されたといわれていました。

 しかし、中道左派のシュレーダー政権は7年しか続きません。その後の2005年に、原発推進に復帰したいとする中道右派政権が誕生します。それが、第一次メルケル政権でした。電力業界側も、政権交代を待っていました。

 しかし、脱原発を見直すまでに、時間がかかります。第一次脱原発を見直したのは、2010年になってからでした。その法案が同年秋に成立します。脱原発時期を2022年から、最長で2036年までに延長することになりました。

福一原発事故後の2011年3月26日、ドイツ各地で史上最大の反原発デモがあった。ベルリンでは、20万人以上の市民が集まった。

 それが、2011年3月に起こった福島第一原発事故を機に、再び2022年までにすべての原子炉を停止することに方向転換されます。それは、前回すでに述べた通りです。

 このドイツの経緯は、一つの教訓を示しています。

 それは、民主主義の下で政治が行われる以上、選挙によっていつでも政権交代があるということです。それによって、原発ゼロ政権が退陣し、原発ゼロ法も原発推進法に置き換えられてしまうリスクがあります。それが、民主主義ということでもあります。むしろ日本のように、政権交代がほとんどないほうが、民主主義としては異常なことなのです。

 だから、いくら原発ゼロ法においてそれが覆される心配ないように配慮されているといっても、それが原発推進に変わる可能性は、いつでもあるといわなければなりません。

 そのため、原発ゼロ政権が誕生しても、原発ゼロ政権が継続して、脱原発へのプロセスがもう後戻りできないように政策を進めなければなりません。

 それでは、脱原発へのプロセスがもう後戻りできない状態とは、どういうことでしょうか。

 ドイツでは、2000年に電力業界と脱原発で合意するのと平行して、再生可能エネルギーを本格的に促進するための再生可能エネルギー法が、2000年3月に成立しています。ドイツは再エネを振興することで、電力システムの構造改革をはじめたのです。

 それに伴い、福一原発事故が起こった2011年において、ドイツの電力消費に占める再エネの割合は、20%を超えていました。その割合は、再エネ法が成立した2000年の割合の3倍以上になっています。

 つまり、脱原発のプロセスによって原子炉を停止させるばかりでなく、それと平行して再エネの割合を増やしていかなければ、原発推進に逆戻りしてしまうリスクがあるということです。

 そのためには、時間が必要です。その期間、原発ゼロ政権が継続していなければなりません。日本のように、福一原発後に民主党政権がガタガタになって、簡単に政権交代してしまうようでは、電力システムの構造改革を軌道にのせることはできません。

 原発ゼロ政権には、最低8年は脱原発の舵取りをしてほしいと思います。日本では比較的簡単に国会を解散できるので、その間に何回も総選挙となる可能性があります。有権者はその間、原発ゼロ政権を支えて、政権を継続させねばなりません。ということは、有権者を脱原発に意識改革していくことも重要になります。

 たとえ原発ゼロ政権と原発ゼロ法ができても、民主主義においては安心しておれないということでもあります。原発ゼロ政権がある程度の期間、継続しなければなりません。

2021年5月02日、まさお

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