ドイツで鉄道運転士がストをする真相

 今日2024年3月12日もドイツでは、鉄道運転士のストライキで列車がほとんど動いていない。ドイツ鉄道と鉄道運転士労働組合(GDL)労使交渉がこじれにこじれている。今回の労使交渉では、これで6回目のストライキだ。

 労組側は労使交渉がまとまらないと今後も、波が続くように単発でストライキを続けていくとしている。

ベルリン中央駅の時刻掲示板。12時台には列車が8本しか動いていない。そのうちの6本はローカル線で、ドイツ鉄道ではないローカル線専門の鉄道会社が運行している

 ドイツ鉄道を利用する乗客やメディア、政治はもううんざり。ストライキを続ける労組への風当たりも強くなっている。政治側では、法的に公共交通のストライキを禁止すべきだとの声も出ている。

 それならここで労使が妥協しても、片付く問題なのだろうか。ぼくはそうは思わない。

 根本的な問題は、ドイツ鉄道を民営化して株式市場に上場させるために、過激に効率を求めてコスト削減し、鉄道会社としてもう機能しなくなっていることにある。

 メンテナンス要員を減らして線路と車両のメンテナンスをおろそかにし、運転士も最低必要な数にまで削減してきた。経営陣は、ネオリベラル的に極度に効率を求めれば経営はよくなると信じ込み、鉄道会社としてやるべきことを忘れ、ドイツ鉄道は鉄道会社としてもう乗客の信頼を失い、機能しなくなってしまった。

 たとえばベルリンのSバーンでは、車両が十分にメンテナンスされていなかったことから故障が続き、それを修理する人材も不足し、結局運行本数を減らしたり、車両数を減らしたりして対応せざるを得ない時期があった。

 こうした問題が出てはじめて、鉄道のことを知らない経営陣に経営をまかせ、リストラさせて、鉄道会社として機能しなくなるまで放置していたことが発覚してきた。でも気づいた時には、もう遅い。ドイツ鉄道はもガタガタな状態だ。

 ドイツ鉄道の列車は、遅れるのが当たり前。スイスやオーストリアのように列車が定刻通り運行されている鉄道会社は、ドイツ鉄道の列車が乗り入れることを避けるようにまでなっているという。

 ドイツ国内でも列車が遅れて次の列車に乗り継ぎができないとか、前の列車が遅れていて運転士が次の列車を運転できず、運転士が到着するまで列車が始発駅で待たされるのも日常茶飯事だ。

 この週末も、ローカル線でベルリン郊外に出かけたが、その時も中央駅で50分近く待たされた。そのうちに、運転を途中で打ち切るとアナウンスがあった。それでは目的地までいけないので、別の列車に乗らざるを得なかった。

 こうしたことは今、ドイツ鉄道では当たり前のことなのだ。

ベルリン中央駅の階上ホームでは、ほんの少数の乗客がいただけだった

 こうしたひどい状態から抜け出すため、まず線路などインフラの状態を改善するため、線路と制御技術を取り替える工事をはじめるという。しかし直すところだらけで、そのために10年以上もかかる。そのうえ路線を順々に区切って完全閉鎖して工事に入り、その代わりに乗客をバスで代行輸送するという。遠距離でバスの代行輸送は、あり得ないはずだ。でもそうしなければどうしもないのが、現状だ。

 ベルリンにいてもバスによる代行輸送は日常茶飯事だが、運転士労組の委員長は、「鉄道会社が電車を走らせないで、バスで代行させていて何が鉄道会社だ」といっていたが、その通りだと思う。

 ドイツ鉄道は、そこまち落ち込んでしまったのだ。

 乗客は列車が遅れれば、払い戻しがあったり、乗り継ぎに間に合わなければ、次の列車を待つしかない。しかし運転士や車掌など列車で働く鉄道マンたちは、遅れによって残業が増えるほか、次の勤務まで休む時間も取れずにそのまま続けて勤務しなければならないなど、労働条件が厳しくなるばかりだ。

 結局、鉄道マンとして働いた経験のない鉄道素人の経営陣が節約、節約で、鉄道会社をめちゃくちゃにしてしまったツケを現場で働く鉄道マンたちが負っていることになる。

 経営陣は緊縮経営で利益を上げれば、ボーナスが上がる。しかし鉄道マンたちの賃金は上がらず、労働条件は悪化するばかりだ。

 この悪循環こそが、鉄道運転士たちが頑固にストライキをする根底にある。だから今ここで労使が妥協しても、根本的な問題は何も解決されない。いずれまた、ストライキが続くことになる。

 鉄道は本来、再エネへのエネルギー転換と脱炭素化において交通の核となるたいへん重要な移動手段にならなければならない。特に鉄道による中近距離交通がうまく機能しないと、自動車交通依存から抜け出せず、交通における脱炭素化を実現するのが難しくなる。

 しかしドイツ鉄道がこのままの状態では、政府の思惑とはまったく異なり、鉄道がエネルギー転換の核になることは考えられない。その点でもドイツでは、エネルギー転換を実現するのは難しいといわなければならない。

 ここでもまた、ドイツの目標が達成できない分野が出てきてしまった。どうするのかなあ。。。

2024年3月12日、まさお

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関連サイト:
ドイツ鉄道運転士労働組合(GDL)の公式サイト(ドイツ語)

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