2024年11月12日掲載 − HOME − 小さな革命一覧 − 記事
ドイツ東部で極右政党が台頭するのはなぜか? (9)- ベルリンの壁崩壊35年イベントにいいたい

今年2024年11月8日から9日にかけ、ベルリンでは壁崩壊35年のイベントが開催された。主催は、ベルリン市の文化プロジェクト企画実施機関。


これまでベルリンの壁崩壊記念というと、ブランデンブルク門前で発泡スチロールでつくったベルリンの壁のドミノ倒しがあったり、ベルリンの壁があったところに白い風船を置いて、ベルリンの壁が開いた23時30分に白い風船を飛ばすなど、印象的なイベントがいくつもあった。


今回の見所は、一般市民が壁崩壊をテーマに描いた絵をパネルに貼って、ブランデンブルク門を中心にしてベルリンの壁があったところに立て掛けること。集まった絵は総数5000枚。北はインヴァリーデ通りからシュプレー川沿いにブランデンブルク門へ、そこからさらにポツダム広場、チェックポイントチャーリーを経由してアクセル・シュピリンガー通りまで、絵を並べた。絵が並ぶと、擬似の壁のように感じる。


一般市民から壁崩壊に関する絵を募集して、それを壁のあったところに展示するのは、とてもいいアイディアだったと思う。


しかしそれには、一つ重大な問題があった。


それは、絵は片方からしか見られないということだ。絵の両側にスペースがあれば、絵の見える方向を交互に変えれば、絵は東西を向いていることになる。しかしイベントのメイン会場であるブランデンブルク前とその周辺では、絵は西ベルリン側しか向いていない。


絵には、自由や民主主義をテーマにしているものが多い。それは今の課題でもあるが、壁が崩壊した時には東ドイツ市民の大きな希望だった。その希望を求めて、東ドイツ市民が立ち上がったのだった。それがなぜ、西ベルリンだけを向いているのか。


メイン会場の位置関係からして、そうせざるを得ないのはよくわかる。しかし西ベルリンだけを向く絵に、ぼくは疑問を感じた。


イベントに使われた絵が置かれたのは、西ベルリン側の壁のあった位置。旧東西ベルリンの国境だったところだ。それは、それでいい。しかし、旧西ベルリンの中にまだ東ベルリンに行ってみたこともない市民がまだまだたくさんいる現実にも、目を向けなければならない。


絵の置かれたところはまったく西ベルリン市民の生活圏で、そこからさらに東ベルリンに奥深く入り込む必要のない地点ばかりだった。それではせっかくのイベントにも関わらず、東ベルリンにまで行ってみようという気が起こらない。イベントは西ベルリン市民の生活圏だけで、行われたといってもいい。


ベルリンの壁を崩壊させたのは、誰だったのか。東ドイツ市民だ。それを記念するイベントがなぜ、西ベルリンの生活圏でだけ行われるのか。ぼくにはよく、理解できない。


絵の並ぶルートのあちこちに、当時の映像を組み合わせた動画が流れていた。しかしそれを見ると、東ドイツの秘密警察シュタージの暴力や社会主義体制など、東ドイツがいかに独裁的だったかを強調する映像が多かったように思う。


それでは、ドイツのメディアが旧西ドイツの視点からしか報道してこなかったこれまでの映像と何ら変わるところがない。東ドイツ市民の視点から見たものが少ないのは、おかしいと思う。


こうして見ると、ベルリンの壁崩壊35年のイベントは、西ベルリンのイベントだった。観光客を引き寄せるためだけのイベントだったといっても過言ではないと思う。命をかけてデモに出た東ドイツ市民の行動が、単なる観光アトラクションにされてしまったといわざるを得ない。


壁が崩壊して35年にもなる。それでいて、表面的には統一されていているように見えても、心の中ではまだまだ統一されていない。統一はまだまだ遠いと感じる。


今回35年のイベントを見て、これまでになくそう感じた。


(2024年11月12日)
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拙書『小さな革命、東ドイツ市民の体験、統一プロセスと戦後の2つの和解』
関連資料:
ベルリンの壁崩壊35年公式サイト(ドイツ語)
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