住民参加住宅を考える(2)

 住民みんなで一緒に買おうとした建物は、それまで何回か集中豪雨があった時に、地下が水浸しになっていました。心配だったのは、水によって基礎が弱っていないかということです。

 基礎に問題があるなら、買う意味はありません。それを直すのに、莫大なお金がかかります。それでは、土地を買う必要がなくても、建物を買う意味がありません。

 念のため、基礎を鑑定してもらったほうがいいということになりました。

 建築家の住民が、そのためには最低5000ユーロ(約70万円)かかるだろうといいました。21軒あるので、まず1軒当り3万5000円ほど支出する勘定になります。

 基礎に問題なければ、建物を買い取れます。その場合、その出費は経費とできます。でも、基礎を直さなければならないとなると、建物を買うのを諦めなければなりません。その時は、捨て金になります。

 このリスクは分配するので、負担はそれほど大きくないと、ぼくは思っていました。

 でもそれは、ぼくの見当違いでした。

 この問題によって、建物を買うことを躊躇する住民が増えていきました。

 まず、住民プロジェクトの中心となる有志を決めようということになりました。しかし、ほとんどの住民が自ら申し出てきませんでした。

 これで、ぼくの試みは終わりました。

 結局、建物と土地は、ベルリンで不動産転がしをしている悪徳業者が競売で買い取ります。この悪徳業者が買い取った建物では、これまでにも自殺者が出たりしていたこともわかっていました。

 ぼくたちの建物でも、長期に失業していた一人暮らしの男性が不安から自殺してしまいました。

 建物は、安い工事業者を使っては数年間に渡ってあちこちリフォームされました。住民はその間、工事現場に暮らしているのと同じ状況に追い込まれます。精神的におかしくなり、治療を受けなければならない住民も出ました。

 家賃はリフォームする毎に引き上げられ、現在、買収される前の家賃のほぼ倍になっています。最終的に、建物は分譲され、住宅それぞれが売りに出されます。

 住んでいる住民には、住宅を先に買う権利があります。各住民に、オファーされました。しかし、ベルリンの不動産市場は気が狂ったかのように高騰しています。もう一般市民に住宅を買えるような値段ではありません。

 「あの時、まさおのいうことを聞いておればよかった」と、後悔している住民もいます。しかし、もう取り返しがつきません。
 
 ぼくは、こんなにいいチャンスは二度とないと思っていました。でも、市の相談窓口に相談した時、こういわれました。

 今住んでいる住民と一緒に住民参加プロジェクトをやろうとしても、ほとんどのケースでうまくいっていない。本当にやりたい有志だけで物件を買うほうが成功する。

 その通りになりました。

 でも、将来のことを考えると、この住民参加型住宅を今後どんどん進めていくべきだと、ぼくは思います。

 住宅は経済論理に任せて、自由市場で取引されてはなりません。住宅は、ライフラインと見なさなければなりません。住民が安心して長く生活できる住宅政策へ切り替えることが、社会にとってとても大切です。

 住民自治をベースにした住民参加型住宅が、その一つのモデルになると思います。

(2020年1月17日、まさお)

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関連サイト:ベルリン市の住民参加型多世代型住宅支援機関(Netzwerkagentur)サイト(ドイツ語)

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