コロナ禍で得た自由

 ぼくは、ドイツでコロナ対策に反対してコロナデモが行われていることについて何回か書いたことがあります(ドイツのコロナデモを検証する(4))。そこでデモに参加する人たちは、コロナ対策によって自由が制限、束縛されているとして、コロナ対策に抗議していました。

 たとえば、マスクしなさいというのは、マスクをしたくないという自由を束縛するという論理です。それが、憲法で保証された自由を侵害していると主張します。

 でも憲法は、市民の健康を守ることも保証しています。マスクをしない自由を優先させるのか、あるいはまず健康を守るのか。憲法は、そのどちらを優先させるかは規定していません。憲法はその場その場で、適切な方法を選択することを求めます。それについても、本サイトで書きました(新型コロナ対策は憲法違反か)。

 ぼくは、コロナデモで主張されている自由は「感情的な自由」だと思います。自分の自由が束縛されていると感じるということです。でも感情的な自由は、人それぞれによって感じ方が異なります。ある人はマスクを強制されて、自由を侵害されたと思います。またある人は、まったくそうは思いません。マスクをするのは当然で、自由を侵害されたとまでは感じません。

 パンデミックでもない時に、マスクを強要されたら、誰でもそれはおかしいと思います。パンデミック時には、マスクを着用しないか、感染防止のためにマスクをするのか、どちらかを優先させなければなりません。そのさじ加減次第では、人それぞれにおいて自由が侵害されたかどうかで、感じ方が異なるのは仕方がないと思います。

 だから、その自由は感情的なものだということです。でもそれで、実際に自由が制限されたかとなると、それは主観的なものにすぎず、客観性がありません。その場合、司法の判断を仰ぐのが一つの判断になると思います。

 それに対してぼくは、コロナ禍によってぼくたちが実質的な自由をを得ていると思います。「実質的な自由」といういい方は、適切ではないかもしれません。でも今は、それ以外にいい表現が思い浮かびません。その意味は、だれにも共通して与えられている自由ということです。

 でもその自由を、みんなが自由だと認識できるわけではありません。むしろその自由を得て、負担に感じる人もたくさんいると思います。

 その自由とは、なんでしょう?

 時間の自由です。ぼくは前回、パンを自分で焼くことから資本主義が見えると書きました。ぼくには、パンを自分で焼く自由と、パンを買う自由があります。でもそれは、ぼくにパンを焼くだけの時間があるからです。時間の自由があるということです。その自由がないと、ぼくにはどちらを選ぶか選択できません。

 でも会社に出勤して働く人には、パンを焼く時間がありません。その時間をパンを買うことによって節約します。その時間を会社で働くことに使います。雇用主にとっては、給与を支払うことで社員の時間を買いとっているともいえます。その給与で、社員はパンを買います。こうして、経済が循環します。

 コロナ禍ではロックダウンによって、この資本主義経済の循環性が機能しなくなりました。経済活動にブレーキがかかり、一部がストップしたからです。その結果ぼくたちには、たくさんの時間ができました。

 それが、時間の自由です。その時間をどう使うのか。それを自分で判断して自由に決めることができます。それとともに、ぼくたちの日常の時間が、いかに仕事と消費に支配されているかが認識できるはずです。いい方を換えると、時間の自由がなければないほど、それだけ資本主義の歯車として拘束されているということです。

 ぼくはフリーランサーなので、いつも自分で判断して自分の時間をどう使うかを決めなければなりません。仕事でアポイントがない限り、時間の使い方を強制されることがありません。ぼくには時間の自由があり、いつも時間を柔軟に使えます。

 でも時間の自由ができると、いつも会社で働いてきた人には、時間をどう使うかを自分で決めるのは苦痛になります。会社で働く限り、時間の自由の使い方について考える必要がなかったからです。その方が楽でした。だから、それが自由だったとは認識できません。

 時間の自由を自由と思うかどうかは、感じ方の問題ではありません。だれにでも共通して与えられた自由だからです。ただこの自由は、抽象的なものです。その抽象性が、自由と認識しにくくします。

(2020年12月11日、まさお)

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