日本の将校は出港前に、なぜU235と書いたのか

終戦を巡る原爆の謎

 日本軍は、イエローケーキ1000キログラムをドイツで購入していました。そのうち、ドイツの潜水艦U234号で日本に輸送しようとしたのは、560キログラムでした。ドイツが降伏したことで、U234は米国に投降。イエローケーキは、米軍に押収されてしまいます。

 U234によって輸送されていたイエローケーキは、化学処理されて高純度だったとはいえ、まだ天然ウランの域を出ませんでした。イエローケーキに含まれているウランは、ほとんど(99%)が放射性の低いウラン238です。放射性の強いウラン235は、1%も含まれていません。この段階ではその比は、天然のものとほとんど変わりません。

 ウラン235の含有量を5%前後に濃縮すれば、原発の核燃料として使えます。それを原爆に使うためには、さらに濃縮してウラン235の割合を90%以上にしなければなりません。そうすれば、広島に投下されたリトルボーイ型のウラン原爆に利用できます。

 前回述べたロスアラモス研究所の元研究員トムさんは、押収リストには記載されていないが、U234号には重水も見つかっていると述べています。となると、重水炉で天然ウランを燃やせば、ウラン238は中性子を捕獲してウラン239となります。それがβ崩壊してネプツニウム239となり、それからさらにβ崩壊して、核分裂性の強いプルトニウム239を得ることができます。プルトニウム239を利用したのが、長崎に投下されたファットマン型のプルトニウム原爆でした。

 U234号の潜水艦通信士ヴォルフガング・ヒルシュフェルトさんは当時のことについて、日本の将校友永中佐と庄司中佐は、潜水艦出港前に(イエローケーキの入っている)茶色の包装紙に包まれた四角い包みに「U235」と記入していたと、記録しています。

 この記述からぼくは、2つの疑問を抱きます。ここではまず、そのうちの一つの疑問について述べておきます。それは、日本の将校がイエローケーキの入った包みに「U235」と記載していたことです。

 ただ実際のイエローケーキに含まれていたのは、ウラン235ではなく、ほとんどがウラン238でした。それなのに、日本の将校2人はどうして「U235」と、記載したのでしょうか。

 その根拠を記録する文書はありません。でも、日本側がイエローケーキを濃縮してウラン235の濃度を高めるつもりでいたからではないか。だから「U235」と記した。ぼくには、そう示唆していると思えてなりません。

 そうでなかったら、「U238」と書いていてもおかしくなかったと思います。

 この辺のことは、ぼくの電子書籍『きみたちには、起こってしまったことに責任はない でもそれが、もう繰り返されないことには責任があるからね』に、もっと詳しく書いています。関心のある方は、のぞいてみてください(以下に、リンクあり)。(つづく)
 
(2021年7月16日、まさお)

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きみたちには、起こってしまったことに責任はない でもそれが、もう繰り返されないことには責任があるからね(書籍案内)

関連サイト:
きみたちには、起こってしまったことに責任はない でもそれが、もう繰り返されないことには責任があるからね(電子書籍、立ち読みできます)

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