さよなら減思力

イエローケーキは小さく包装されていたのか

終戦を巡る原爆の謎

 ドイツの潜水艦U234号が日本に向けてキール港を出港する前、日本向けの荷物を潜水艦の前端に積み込む作業が行われていました。その時、日本の将校2人が木の箱に座って作業をしています。友永中佐と庄司中佐でした。2人は、黒のインクで四角い包みに「U235」と記入していました。包みはその後、船員によって艦内に積み込まれます。包みは、25×25センチメートルを正方形の形をし、茶色の包装紙に包まれていたとされています。鉛のように重そうに運ばれ、潜水艦先端の円筒状の容器に積み込まれました。

 それを目撃したのは、U234号の潜水艦通信士ヴォルフガング・ヒルシュフェルトさんでした。ヴォルフガングさんは日本の将校に、「何が入っているのか」と聞きます。すると友永中佐が咄嗟に、「U235の積荷なんだが、(U235は)もう日本に行かないことになったのでね」と返答しました。
 
 ヴォルフガングさんは不思議に思い、キール港を拠点とする第5潜水艦部隊に問い合わせてみます。第5潜水艦部隊は研修を目的とする部隊で、U235号はフイスゲン艦長の指揮するVII式C型という小型の潜水艦だとわかります。日本行きの作戦などは、まったくなかったことがわかります。

 ヴォルフガングさんは当時の記憶から、後になって『敵対航海(Feindfahrten)、潜水艦通信士の航海日誌(Das Logbuch eines U-Bootfunkers)』という本を書きました。以上は、そのヴォルフガングさんの本に書かれていました。

ドイツの潜水艦U234号の潜水艦通信士ヴォルフガング・ヒルシュフェルト著『敵対航海(Feindfahrten)、潜水艦通信士の航海日誌(Das Logbuch eines U-Bootfunkers)』

 ただヴォルフガングさんの記憶は、イエローケーキの発注者である昭和通称会社の発注書と一致しません。昭和通商会社は、イエローケーキを直径54センチメートル以下の木の樽に入れて納入するよう指示しています。その木の樽に記載されたカーゴ番号が、U234号にあった荷のカーゴ番号と一致していたことから、U234号で見つかったイエローケーキが、昭和通商会社が発注したものだったことがわかりました。押収リストにも、1270/1から10のカーゴ番号のついた荷物が10個あったと記録されています。

 友永中佐のことについて書いた富永孝子さんの『深海からの声、Uボート234号と友永英夫海軍技術中佐』(新評論刊)では、酸化ウランが47個の小さな木の箱に入っていたとされています。富永孝子さんはヴォルフガングさんの記録を元に書かれていると思います。でもそれは、米国で作成された押収リストとも一致しません。

 当時の文書を見ると、イエローケーキなど酸化ウランは通常、木の樽に入れて取引されていたことがわかります。ただドイツ軍が、イエローケーキをできるだけ小さく包装するよう指示したことがあったこともわかっています。それは、敵に見破られないように、カモフラージュして運ぶためだったのではないかと思います。

 日本軍の場合も、潜水艦で輸送するよりも、日本軍将校や外交官に小分けしたイエローケーキを持たせて、シベリア経由で陸地で運んだほうが確実に日本に届いた可能性があります。日本とソ連の間には、相互不可侵を規定した日ソ中立条約がありました。しかし独ソ戦でドイツは、1944年にロシア全域から撤退を余儀なくされ、ソ連赤軍がドイツに侵攻をはじめています。そのため、陸地で輸送するのもかなり危険だったと見られます。

 これらの状況を総合的に判断すると、イエローケーキをわざわざ小分けして包装する意味がありません。イエローケーキは小さく包装されていたのではなく、潜水艦で運べるように、10個の木の樽に分割して入れられていただけではないかと、ぼくは想定します。残された文書からも、そうしか思えません。

 この辺のことは、ぼくの電子書籍『きみたちには、起こってしまったことに責任はない でもそれが、もう繰り返されないことには責任があるからね』に、もっと詳しく書いています。関心のある方は、のぞいてみてください(以下に、リンクあり)。(つづく)
 
(2021年7月30日、まさお)

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きみたちには、起こってしまったことに責任はない でもそれが、もう繰り返されないことには責任があるからね(書籍案内)

関連サイト:
きみたちには、起こってしまったことに責任はない でもそれが、もう繰り返されないことには責任があるからね(電子書籍、立ち読みできます)

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