さよなら減思力

核の共有はNPT条約違反

 ドイツは、北大西洋条約機構(NATO)の加盟国です。東西ドイツ統一前は、西ドイツがNATO加盟国、東ドイツはワルシャワ条約機構加盟国でした。

 それが、東西ドイツ統一時に調印されたドイツ最終規定条約(2プラス4条約)によって、統一ドイツはNATO加盟国になったのでした。ここで「2」は東西ドイツのこと、「4」はドイツを分割占領していた連合国の英米仏ソのことです。

 ドイツは、第二次世界大戦で敗戦しました。ドイツの領土はその後、連合国4カ国に分割占領され、1949年に米英仏領に西ドイツが、ソ連領に東ドイツが誕生します。

 ドイツが無条件降伏した後、ポツダム会談において戦後ドイツの処理について話し合われました。そこで、ドイツの中央政府は存在しないと見なされ、敗戦国ドイツとは停戦協定も平和条約もないままの状態になります。敗戦国ドイツは、潜在的にしか存在しないことになったのです。

 ドイツ敗戦から45年後、2プラス4条約と東西ドイツ統一とともに、その潜在的敗戦国ドイツが国際法上完全な主権を得て、ドイツという国が復活したのです。

 それに伴い、統一ドイツはNATO加盟国となり、旧東ドイツ領では駐留していたソ連軍が撤退。統一ドイツは全体の兵力を削減します。

 同時に、統一ドイツは核兵器・生物兵器・化学兵器の所有、管理、製造を放棄し、核不拡散条約(NPT)がそのまま統一ドイツにも適用されることになります。その際、旧東ドイツ領では外国軍の駐留、核兵器の配備と運搬も禁止され、非核地帯となりました。

 統一ドイツの憲法として、旧西ドイツの憲法に相当する基本法がそのまま基本法として適用されます。その第24条において、ドイツの防衛は集団自衛、つまりNATOによる集団防衛を基本とするとされています。

 NATOは核を抑止力として利用することを原則とし、米国の戦術的核兵器がNATO加盟国4カ国に配備されています。そのうちの1カ国がドイツです。ドイツ西部にあるドイツ空軍ビュッヒェル基地に、米国の管理下で戦術的核兵器が配備されています。

 ドイツには、戦争兵器管理法という法律があります。同法によって、ドイツの武器輸出が規制されます。同法はさらに、核兵器・生物兵器・化学兵器についても規制しています。そこでドイツは、単独ではこれらの兵器を開発、製造、保有、使用はできないが、NATOの枠内であれば認められる、と記述されています。

 これが、ドイツに米国の核兵器が配備され、有事にそれをドイツ空軍の戦闘機に装着して使用できる基盤になっています。もしこれを米軍機が使用すると、有事におけるドイツの主権が侵害されます。

 これが、NATOの核共有体制の原則です。

ベルリンでの反戦・反核デモから。2017年11月撮影

 ただここで問題は、ドイツがNPT条約の締約国だということです。NPT条約は、核保有国から非核保有国への核兵器の移譲を禁止しています。

 さらに1999年の国連総会では、「NPT条約の各条項はすべての締約国に対して、いかなる状況においても拘束力を有する」と決議されています。

 ということは、ドイツなどNATO加盟国が有事に米国の核兵器を使用できるNATOの核共有体制は、NPT条約に違反します。

 『核情報』のサイトによると、この問題に噛み付いたのが、中国でした。中国は今年2022年8月に行われたNPT条約再検討会議において、NATOの核共有体制はNPT条約に違反し、核拡散、核戦争をもたらすと主張しました。

 NATOの核共有体制は、核兵器は通常、米国の管理下にあるが、有事になればNPT条約が失効し、NPT条約に違反しないとの米国の解釈がベースとなっています。この米国の解釈は、米国がNPT条約の調印、批准前(正確には直前)に米国上院に送付したもの。それは、当時ソ連にも提示され、NATO解釈の基盤になっています。

 NPT条約再検討会議における中国の主張に対しては、核共有国のドイツが反論しました。ドイツは、NATO加盟国は米国の解釈をベースにしたNATOの解釈を受け入れ、共有しているとしたのです。

 そうなるとこれは、「NPT条約の各条項はすべての締約国に対して、いかなる状況においても拘束力を有する」とする1999年の国連総会の決議も無視しています。

 すでにサイトで書いたことがありますが(「核兵器禁止条約を生活とどう結びつけるのか」)、ぼくはNATOによる集団的防衛における核兵器使の問題について、何回かドイツの国防相や外務省高官に直接質問したことがあります。

 その時、核兵器はNATOの核ドクトリンに基づく核抑止力として配備されているもので、ドイツがNATO加盟国として、核兵器を開発、保有、使用することはないといわれました。

 今年2022年2月にはじまったウクライナ戦争では、ロシアが核兵器の使用までもほのめかしています。今のところそれは、脅しにすぎないと見られます。しかしこれから、ウクライナ戦争がどう展開していくのかわかりません。

 そこで疑問に思うのは、有事になると、NPT条約が失効するという解釈です。

 ロシアによるウクライナ戦争により、陸地でつながるヨーロッパ大陸では激震が走っています。その状態で、いざという時にお互いに冷静に判断できるのかです。ロシアが核兵器を使った時、NATOはどう対応するのでしょうか。NATO司令部が核兵器を使うと判断すると、ドイツ空軍の戦闘機は核兵器を装着して、戦地に向かわなければなりません。

 NATO体制の基本は、防衛です。そのためNATOは、米国の戦術核兵器をNATO域内でしか使いません。NATO国境を超えてまで、核兵器を発射しないということです。ただそれとて万が一の時に、その基本を守ることができるのでしょうか。さらに核保有国の米国、英国、フランスは、どう対応するのでしょうか。

 有事における各国の反応は、まったく予想できません。

 核の共有とNPTの問題は、NATOに止まりません。ウクライナ戦争勃発直後、故安倍元首相が日本も核共有を導入すべきかどうか検討すべきだと発言しました。

 岸首相は故安倍元首相の発言後、核保有を導入しないと述べているようです。しかし、核の共有とNPTの問題はすでに、日本にまで飛び火しているといっても過言ではありません。

 日本は被爆国だからと、安心して何も考えない、何も対応しないでいるわけにはいきません。日本政府が、核共有に関して米国・NATOの解釈を支持すれば、日本も有事に、NPT条約を反故(ほご)にしてしまう危険があります。

 世界が今、危険な状態にあるだけに、核の共有がNPT条約違反だということを世界中がはっきり再認識し、いかなる状況においてもNPT条約が遵守されなければならないことを、主張し続けなければなりません。

(2022年9月16日、まさお)

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関連サイト:
核兵器不拡散条約(NPT)禁止条約の条文(日本外務省のサイト)
中・独核共有論争ー「戦争が始まればNPTは失効」とのNATO解釈(核情報)

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