協同組合

 前回、ソーシャル銀行の必要性について書いた(「ソーシャル銀行が必要」)。そこでドイツのソーシャル銀行であるGLS銀行が、協同組合の形態になっていると説明した。

 ドイツではその他、国民銀行(Volksbank)も協同組合形態になっている。一般市民は株主として出資することができ、最低出資額は500ユーロ(約7万5000円)だ。

 その他にもドイツには、貯蓄銀行(Sparkasse)がある。こちらは、州や郡、市町村などの自治体に経営参加権のある公的な金融機関のようなもの。一般市民の貯蓄を主な業務とする。貯蓄銀行は民間銀行と異なり、社会の底辺で生活し、ほとんど所得のない市民に対しても、原則として銀行口座の開設を拒否できないことになっている。

 こうして見るとドイツには、市民のための協同組合銀行や公的銀行の伝統があることがわかる。

 実は、それだけではない。伝統的な協同組合として、協同組合型の集合住宅もある。市民が住宅協同組合の会員となり、市民自治の形で集合住宅が運営される。

 こうしたドイツの伝統的な協同組合は、ユネスコの無形文化遺産にまでなっている。

市民協同組合によって設置されたベルリンの協同組合住宅メッケルンキーツ(Möckernkiez)

 再生可能エネルギーの普及、拡大とともに、協同組合がとても重要な役割を演じている。こちらは、「エネルギー協同組合」などど呼ばれる。

 市民有志が集まってエネルギー協同組合を設立し、市民から運用資金を集める。それによって、再エネ発電施設を設置したり、市民電力会社が運営される。その他集合住宅においても、住民エネルギー協同組合を設置して、住民が集合住宅において協同で発電、熱供給を行なう。

 たとえば日本でも有名になったシェーナウの市民電力会社の母体は、協同組合だ。

 ぼくは今後、協同組合の形態がエネルギーや住宅、銀行ばかりでなく、ライフラインに関わるものにもっと拡大していくべきだと思っている。いや、拡大していくものと確信している。

 それはなぜか。

 これまで『地道な市民』では、民間企業によって営まれている実経済において、労働者がいろいろな形で過酷な労働を強いられていることについて書いてきた。ネット化とともに実経済が縮小し、実経済で働く労働者が大幅に減少する問題も指摘した。

 それと並行して、プラットフォームで仲介されるグギワーカーといわれる新しい労働者が生まれている。たとえばギグワーカーは、食糧品などの宅配サービスを請け負う。ギグワーカーはサービスを仲介するプラットフォーマーに依存して、その管理の下で働く。

 しかし自営業者として薄給で働き、社会保険も自分で負担しなければならない。そこで大きな利益をあげているのは、プラットフォーマーといわれるネット企業ばかりだ。

 さらに問題なのは、ネット企業の利益はどこにいくのかだ。ネットの拡大で、グローバル社会では国境がなくなったに等しい。ネット企業の得た利益は、利益が発生した場所にはもう分配されない。課税もされない。

 その結果、実経済で働く労働者が減少するばかりでなく、国の税収も縮小していく。巨大ネット企業とその企業を有する国に、利益と税収が集中する。利益が分配されなくなる。格差が拡大するばかりだ。

 こうしたネット社会の問題に対抗するため、市民自らが自分の生活空間で新しい仕事を生み出し、地元に市民による新しい実経済が成り立つように構造改革しなければならないと、ぼくは思っている。

 市民による経済の小型化、分散化だともいえる。あるいは、市民による自主管理型経済ともいえると思う。社会がグローバル化し、ネット化すればするほど、小型化、分散化された市民自主管理型経済が求められるようになる。ぼくはそう、確信している。

 その基盤になる重要な形態が、市民による協同組合だと思う。

(2022年8月26日、まさお)

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関連サイト:
メッケルンキーツ住宅協同組合のサイト(ドイツ語)

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