コロナ禍は、ドイツにいて安心

 ここベルリンでは、6カ月半続いたロックダウンが目に見えるように緩和されている。これまでテイクアウトしか認められていなかったレストランなど飲食店も、ようやく屋外だけだが、営業できるようになった。

ビアガーデンで、ビールを求めて並ぶ人たち。みんなマスクを着用している

 早速、わが家の近くにあるビアガーデンにいった。事前に、抗原検査をして陰性であることを証明する。あるいはワクチン接種を2回済ませ、2回目からすでに2週間経過していることをワクチンパスで証明する。さらに、住所、氏名、連絡先をテーブルにあるQRコードをスマホでスキャンして、お店の記入フォーマットに入って自己登録する。当日感染者が出た場合に、すぐに連絡するためだ。

 抗原検査は、街の至るところに検査ステーションがある。抗原検査ステーションは、市内の薬局などが、店舗以外にあちこちに設置している。陰性証明は当日検査分だけが有効。ショッピングでお店に入る時も、当日の陰性証明が必要だ。検査は無料。万一陽性の結果が出ると、保健所に届け出てPCR検査を受けなければならない。

 ビアガーデンでは屋外でも、席について飲み食いする直前まで、FFP2マスク(欧州規格)かそれに相当するKN95(中国規格)、あるいはN95マスク(米国規格)をしていなければならない。バスやトラム、地下鉄など公共交通に乗る時も、医療用マスクを着用する。

 これら医療用マスクは、昨年2020年12月から今年4月までの間、60歳以上の市民を対象に、ほぼ無料に近い形で各自に15枚が国から給付された。

 行きつけのビアガーデンが長いロックダウンでつぶれずに、営業を再開してくれた。ぼくは、よかったととても安堵している。顔なじみの店員とも久しぶりの再会。お互い、話が山のように溜まっているかのように話がはずんだ。

 ここでは、自家製の生ビール(クラフトビール)が飲める。久しぶりの生クラフトビールはうまい。最高だった。これからは当分、毎回陰性証明を持っていないと、ビールは飲めない。でもうまいビールが飲めるなら、その手間は何ともない。

 ベルリンでは現在、1週間の10万人当たりの新感染者数は56人。その指標だけで見ると、日本ではステージ4の感染爆発段階(25人以上)となる。ドイツ全体では63人で、州別に見ても、一番低いのは30人。ドイツは、日本の段階表示からすれば、どこもステージ4となる。

 日本では現在、各地で医療崩壊にまで至っていると聞く、治療の優先順位を決めるトリアージまで行なわれているという。しかしドイツではこれまで、ほとんどそこまで医療体制が緊迫していない。

 ドイツでは今でこそ、1週間の10万人当たりの新感染者数が下がった。だがちょっと前までは、ドイツ全体で100人を超え、200人近くにまでなっていた。自治体によっては、500人を超えていたところもあった。

 それでも医療体制は、日本ほど緊迫せず、崩壊していない。日本のステージ4でも現在、規制がどんどん緩和されている。それはどうしてなのか。

 病床数で見ると、ドイツと日本ではそれほど大きな違いがない。日本は他国と違って、急性期用とリハビリ用病床を区別していないので、急性期とリハビリ用の病床を足すと、人口1000人当たりの病床数は、ドイツの8.0に対し、日本は7.8と、それほど差がない。

 ただ医療従事者の数で比較すると、その差が歴然となる。人口1000人当たりの医師数は、ドイツが4.3人なのに対し、日本は2.4人にすぎない。人口1000人当たりの看護職員(国際的には、看護師と介護師のこと)では、ドイツの13.0人に対し、日本は10.5人と少ない。日本では、看護職員が比較的多いのに対し、医師数が少ないのが特に目立つ(データは、把握年が異なるので単に目安として見ていただきたい)。

 前ドイツ医師会会長のフランク・ウルリヒ・モントゴメリーさんは昨年初夏にあった記者会見で、ドイツはOECD(経済協力開発機構)にさんざん批判されてきたが、他国に比べて緊急時に備え、医療体制にそれほど経済効率を追求してこなかったという。それが現在、コロナ禍で生きていると評価していた。そこに、コロナ禍における日独の差が現れたのか。

ベルリンの見本市会場で設置された仮設のコロナ病棟には、集中治療病床もある。2020年8月撮影

 ドイツ政府は、コロナ禍で集中治療病床を増やすため、病院に補助を供与してきた。ベルリン市では新型コロナ感染者の拡大に備えて、まったく使わないことも覚悟の上で、見本市会場を急遽仮設病棟に改造した。この点でも、ドイツでは素早い対策が目立った。

 コロナ禍で医師と看護員不足を解消するため、定年退職した医師や看護職員をリクルートするほか、ドイツ国防軍兵士や医学生の手も借りるなどして総出の体制が整備された。

 ワクチン接種に関しては、ドイツでは当初、ワクチン不足が目立った。ワクチン接種がなかなか進まず、政府はかなり批判された。しかしここにきて、国内でのワクチン生産を拡大するなどしてきたことで、ワクチン接種が速いスピードで進んでいる。

 現在、ワクチン接種を1回済ませた人の割合は40%、2回済ませた人の割合は14%となっている。2回済ませた人の割合はまだ低い。それは、ワクチン不足状態においてワクチン接種をできるだけ広く、早く進めるために、1回目と2回目のワクチン接種の間隔を延ばしたからだ。たとえばバイオンテック/ファイザーのワクチンの場合、1回目と2回目のワクチン接種の間隔を当初3週間としていたが、それを6週間に延ばしている。

 ワクチン接種体制に関しても、ワクチンの入手と配給を国が行い、ワクチン接種は州が行う。その点で、役割分担がはっきりしている。ワクチン接種の予約も、国は一切タッチしない。ベルリンでは、昨年2020年12月のクリスマス前に最初の(大規模)ワクチン接種会場が完成。現在、6つの大規模接種会場がある。ワクチン接種優先者においてほぼワクチン接種の見通しが立ったことから、現在は一般の開業医でもワクチンを接種できるように拡大した。

 ワクチン接種に向け、ドイツではワクチン接種の優先順位を国の倫理委員会が事前に審議。その結果を国に諮問した。それをベースに、感染症問題を管轄する国のロベルト・コッホ研究所内のワクチン接種委員会が接種優先順位を最終決定した。この点でも、早い段階で準備が進んでいた。

ワクチンの接種を終え、タクシーの順番を待つ高齢者たち。元空港ターミナルを改造して設置されたベルリンの大規模接種会場の一つで撮影

 実際のワクチン接種においても、自宅とワクチン接種会場の間を移動するために、70歳以上の高齢者には、その往復のタクシー券が無料給付される。これは同時に、コロナ禍で苦しむタクシー業界を財政的に支援することも意図されている。

 コロナ対策やワクチン接種においては、ドイツでもいろいろ問題があり、批判もたくさん出ている。でも、場当たり的な対応の目立つ日本政府のやり方に比べると、格段の差があるといわなければならない。

 ぼくは、ワクチン接種のアポイントメントをとるのにちょっと苦労した。でも7月末までには、2回目の接種を終えることになっている。ぼくはドイツ国籍は持っていない。でも外国人だからと、差別されたとは感じていない。

 外国人でも、ドイツにいてよかった。ぼくはとても安心している。

(2021年5月24日、まさお)

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関連サイト:
ロベルト・コッホ研究所の新型コロナ統計ダッシュボード

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