病院の医師には時間的な余裕がない

 後見人をしたベルリンの友人についてはすでに、大学病院に検査入院した時にインフォームドコンセプトなどほとんどなかったことを書いた(「ドイツ最先端の大学病院にインフォームドコンセプトはあるのか」)。

 母が検査入院した日本の地元の大学病院では、患者向けに入院時と検査結果の説明時に病状説明書が提示された。それに対してベルリンの友人の場合には、患者のために何も説明書ようなものは出されなかった。退院時に後を引く継ぐ緩和ケア医と患者を送ってきたホームドクター宛に、診断書が出されただけだった。診断書は医師用のもので、専門用語ばかり。素人にはほとんど理解できない。

 その専門的な診断書をベースにして、友人は退院時に担当医から病状説明を受けた。患者の友人に、理解できるはずがない。

 こうした患者に対する対応は、ベルリンの大学病院だけの特別な状況ではないと思う。コロナ禍で特別に、こういう状況になっているわけでもない。ドイツの病院全体において、恒常的に見られる現実だと思う。

 友人の担当医と電話で話そうとしても、担当医はほとんどつかまらなかった。この時間帯だったら、席にいるだろうといわれていた。しかし医師は、自分の席にいないことのほうが多かった。

 これは、ドイツの医師の勤務時間が短いからではない。病院の医師は毎日残業をして長時間働き、毎日くたくたになっている。それでも、自分の席でゆっくり書類を作成している時間がない。これが、ドイツの病院の医師の現実なのだと思う。

 ドイツの病院における医師の過労問題はこれまで、いつも問題になってきた。毎日長時間労働しなければならない割に、北欧諸国などに比べると賃金が低い。その結果、優秀な医師がノルウェーなど国外に流出している。

ベルリンのシャリテー大学病院。この白い高層棟には主に、病棟が入っている

 OECD(経済協力開発機構)の2022年健康統計データによると、人口1000人当たりの医師数(2020年)はドイツが4.5人、日本は2.6人となっている。ドイツの1000人当たりの医師数は、日本の2倍近くになっている。

 それにも関わらず、治療効果は別として、患者に寄り添わないなど、どうしてドイツの病院の医師には、患者に容態や検査の内容についてゆっくり説明する時間がないのだろうか。

 これはぼくの知見だが、ホームドクター制のドイツでは、総合医のホームドクターは多くても、病院などで専門的に治療する医師の数が不足しているからではないか。制度上の問題が、一つの理由になっていると思う。

 ドイツの病院は、人的な余裕がないどころか、経済的にも余裕がない。地方の小さな病院の多くでは、赤字経営が目立つ。この問題を解消するため、病院を統合するほか、病院毎に治療の対象とする分野を特化して、より専門性を持たせることが考えられている。

 それによって、経済的問題は解決できるかもしれない。しかしそれで、人的余裕ができるかどうかはわからない。さらに、専門病院のあるところが患者の居住地域からより遠くなってしまう心配もある。

 医療体制をどう整備するのか。ドイツも大きな課題を抱えている。
 
2023年1月26日、まさお

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関連サイト:
OECDの健康統計2022年(英語)

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