広島に投下された原爆はドイツ製だった?

終戦を巡る原爆の謎

 終戦直前、ドイツの潜水艦U234号がイエローケーキ(酸化ウラン)を日本に輸送しようとした話はすでにしました(以下の関連記事を参照)。航海中にナチスドイツが降伏したことから、潜水艦は米国で投降。イエローケーキは米国に押収されました。

 そのイエローケーキが広島に投下された原爆に使用されていたという主張もあります。しかしそれを濃縮するまでに時間がかかること、さらにイエローケーキに含まれていた核分裂性のウラン235は、560キログラムあったイエローケーキのわずか0.7%程度です。4キログラムにもなりません。

 広島に投下された原爆「リトルボーイ」には、約63.5キログラムの濃縮ウランが入っていました。ドイツからのウランでは、まったく足りません。

 時間的にも、量的にも、ドイツからのイエローケーキがリトルボーイに使われたと主張するには、無理があります。

ティニアン島においてエノラ・ゲイ(B29)爆撃機に搭載される前の広島に投下された原爆「リトルボーイ」(08/1945. ARC Identifier: 519394、パブリックドメイン、https://www.archives.gov/research_room/arc/)

 その他にも広島に投下された原爆は元々、ナチスドイツで製造されたものだったとの主張もあります。

 たとえば第二次世界大戦においてナチスドイツや日本のスパイとして活動したといわれるスペイン人ベラスコは、米国のスパイがV2ロケットなどを開発したドイツ北東部のウーゼドム島北端にあるペーネミュンデ陸軍兵器実験場から原爆を盗み、それを広島に投下したと主張しています。

 日本では、ペラスコに直接インタビューして本にまでなっています(『スパイ”ベラスコ”が見た広島原爆の正体』、学習研究社刊)。

 ドイツでも、ナチスドイツの核実験があったともいわれるテューリンゲンの森にあるオーアドルーフの地下において原爆製造工場があり、そこで製造された原爆が広島に投下されたと、地元の歴史家などが主張しています。その本は、ドイツでも有名な右翼系出版社から出版されています。

 余談になりますが、オーアドルーフにあるミヒァエリス教会でバッハの兄がオルガニストをしており、その時に10代のバッハがオルガンを学んだといわれています。

 ここで問題になるのは、ナチスドイツが原爆の開発に成功していたのかどうかです。ドイツの原爆開発で有名なのは物理学者ハイゼンベルクらが中心となったウランクラブです。しかしウランクラブでは、原爆を開発できなかったというのが通説になっています。開発しようとしなかったとまでいわれています。

 もう一つは、『ヒトラーの爆弾』を書いた歴史家カールシュが主張している小型原爆の開発です。カールシュはそのために、ドイツ北東部のリューゲン島とテューリンゲンの森のオーアドルーフで核実験が行われたと主張しています。これについては、「ナチスドイツは原爆を開発していなかったのか」でも報告しました。ナチスドイツはこの小型原爆を、V2ロケットに搭載して使う計画だったと見られています。

 となると地理的に見ても、広島に投下されたと主張されるドイツ製の原爆はカールシュが主張する小型原爆だったのかと思いたくなります。

 しかし実際に広島に投下された原爆と、ナチスドイツのミニ原爆には、根本的な違いがありました。

 広島に投下された原爆は、高濃縮されたウラン爆弾で、ガンバレル型といわれるものでした。理論構造が単純で、爆発するのは確実でしたが、取り扱いと安全性に問題のある方式でした。

 それに対してナチスドイツでは、ガンバレル型の原爆を開発していた形跡がありません。ナチスドイツでは、爆縮方式を利用して、火薬の爆発によって空洞部を高圧、高温にしてウランを核分裂させるが、さらに核融合反応を加えて、核分裂の効率をよくしたものだったと見られます。ここでは、広島型原爆のような高濃縮されたウランは必要ありません。

 その点で、ナチスドイツの開発した原爆が広島に投下されたとは考えられません。原爆のタイプに関してまったく議論せず、広島に投下された原爆がドイツ製だったかどうかだけが注目されてきたことに、とても疑問を抱きます。(つづく)
 
(2024年3月17日、まさお)

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