ドイツのコロナデモを検証する(4)

 2020年8月29日、ベルリンでコロナデモがありました。デモは、一旦警察当局が禁止しましたが、行政裁判所の判決で実現できました。

 いい機会なので、ぼくはコロナデモを取材して、どういう市民がデモに参加しているのかしっかり把握したくなりました。ただデモや集会中にいっても、たくさんの参加者でどういう人たちが参加しているのかよくわかりません。

 それで、デモの後で集会の会場となる6月17日通りに集会前にいきました。いったのは、お昼過ぎでした。デモ行進のはじまる時間帯です。日本人女性のビデオで、ドイツの報道機関が8月1日のコロナデモで撮影した写真で問題になった時間帯です。

 ぼくが6月17日通りで取材した時は、8月1日の写真ほどの人がいませんでした。これまでの経験からすると、1万人以上集まっていたと思います。

 ぼくは、デモのはじまるブランデンブルク門から集会のある勝利の塔の方向に歩いてみました。

 それで気がついたのは、ここ何年も取材してきた反原発デモや反自由貿易デモ、反社会分断デモなどに比べると、かなり参加者の顔つき、雰囲気が違うことです。普段ベルリンでは聞かないなまりのあるドイツ語も、あちこちで聞こえます。

 デモ当日撮った写真から、どういう人たちがコロナデモに参加しているのか検証してみたいと思います。

 コロナデモには主に、新型コロナのパンデミックはない、自分たちの自由はそのウソで侵害されているとする人たちが参加しています。デモは、そう主張するドイツ南西部シュツットガルトのグループが主催します。

 反ワクチン派のスタンドもありました。中国の法輪功のグループもいました。これは、スピリチュアル系に入れればいいかと思います。

 ルドルフ・シュタイナーを支持するアントロポゾフィー系かと見られるグループもいました。レインボーフラッグもいくつか見られます。旗には「ビース」とあります。これは、性的少数派のLGBTを支持するものではなく、平和の旗ということだと思います。

 主催者の流すスピーチでも、何回となく「ビース」、「自由」、「隣人愛」ということばが出てきます。ただ流れる音楽やスピーチの内容から、セクト的な感じを受けるのは、ぼくだけではないと思います。

 この写真を見ればわかるように、デモ集会では1.5メートルのソーシャルディスタンスをとるのは不可能です。でも、それが行政裁判所がデモを認める条件でした。裁判所は屋外のため、マスクの着用を義務付けませんでした。ベルリンの感染症防止規制が、屋外でのマスクの着用を規定していないからです。

 ソーシャルディスタンスが守られないので、警察当局はすぐにマスクの着用を義務付けました。しかし、誰もマスクを着用しようとしません。

 そのため、警察当局はコロナデモがはじまってまもなくして、デモの中止を決定します。その後のデモ集会でも、ソーシャルディスタンスを守ることができません。ただ主催者が参加者に何回となくソーシャルディスタンスを守るよう要請したことから、デモ集会を予定通り開催することを認めます。警察当局が大目に見たのだと思います。

 この写真では一人しか見えませんが、黄色のベストを着た参加者も結構見かけました。当日は、デモの警備係がと思っていました。ただ後で、これがフランスではじまった黄色いベスト運動をドイツではじめた人たちだとわかりました。ただドイツの運動家たちは、Qアノンなど陰謀説に染まっているといわれます。

 この写真では、黒白赤の大きな旗が見えます。これは、ドイツ帝国の国旗でした。この旗は、1933年から1935年までナチス・ドイツの国旗でもありました。黒白赤の旗はたとえば、極右政党ドイツ国家民主党(NPD)が普及させています。ドイツ帝国軍艦首旗も見えます。その他にも、右翼系かと見られる旗も見えます。
 こうして見ると、右翼色が強いと感じます。
 この写真は、上の写真とほぼ同じところから撮影しています。ズームにするかしないかで、参加者数の多さがまったく違って見えることに注意してください。

 この写真では、前述したドイツ帝国の国旗とドイツ国旗(金赤黒)が見えます。会場では、国旗がやたら目立ちました。他のデモでは、自分たちの主張を書いたパネルのほうが俄然多いので、それが対照的でした。
 後ろには、ザクセン州の州旗が見えます。ザクセン州の州都ドレスデンは、ペギーダ(西洋のイスラム化に反対する欧州愛国者)による反イスラム運動の中心です。
 旗で一番多かったのは、ドイツ国旗でした。次に、ドイツ帝国国旗。次が米国国旗、オランダ国旗でした。
 国旗を掲げているグループは、感じからして右翼から極右グループです。ぼくが取材した時間帯は、極右派はそれほど目立ちませんでした。ドイツでペギーダやコロナデモの取材を続けているドイツ公共放送ARDの記者オラーフ・ズンダーマイアーさんは、この日は参加者の全体の約20%が極右派だったと、夜のニュースで報告しています。
 極右グループは夕方になって、ドイツ帝国の国旗などを持って近くのドイツ連邦議会に侵入しようとしてバリケードを乗り越え、警官隊と衝突しています。これが今、ドイツではたいへんな問題になっています。ナチスは1933年、この場所にあった当時の帝国議会に放火して政治的な実験を握ったのでした。その前には、暴力的な極右フーリガンがロシア大使館前を封鎖したことから、警官隊が排除しています。

 この写真にあるように、米国の国旗も目立ちました。ブランデンブルク門の前には米国大使館がありますが、その前で米国国旗を掲げて、米国に感謝している参加者も目立ちました。
 ぼくが取材した時間帯は、極右までとはいわないでも、右翼だろうと見られる人が全体の半分近くいたと思います。また、トランプ米国大統領ファンではないかと見られる発言をしている人も見られました。

 この写真は、デモ集会のある勝利の塔のエリアです。ここでは、オランダ国旗を掲げて気勢を上げるグループが集まっていました。その気勢の上げ方からして、右翼だと見られます。
 そのほか、ぼくが取材した時間帯には、イスラエル、スウェーデン、ポーランドなどの国旗も見られました。

 パネルで一番目立ったのが、この写真のパネルです。パネルでは、メルケル首相をはじめとした政治家、ビル・ゲイツ、ドイツのウイルス学者、ジャーナリストなどが囚人服を着せられています。パネルには、「有罪」と書かれています。
 これは、コロナデモの反既成政治、反エリート、反科学、反メディア性を象徴しています。それは、ペギーダ(西洋のイスラム化に反対する欧州愛国者)による反イスラム運動と似ています。

 ちょっとびっくりしたのが、この横断幕。「皇帝を呼び出す(Wir rufen den Kaiser)」とあるので、なんじゃこれと思いました。ところがよく調べてみると、これは米国の陰謀説グループで、トランプ大統領を熱烈に支持するQアノンのシンパとわかりました。QアノンのTシャツを着た参加者もいました。
 横断幕にあるWWG1 WGA (Where we go alne, we go alll (わたしたちはみんなが一つになるところに、みんないきますよ))は、Qアノンのモットーです。横断幕の両サイドにあるQの文字の中には、米国トランプ大統領と露国プーチン大統領の写真が入っています。横断幕の両端には、米国とロシアの国旗も入っています。
 横断幕には、「モーゲンソー計画を止めろ」ともあります。モーゲンソー計画は、終戦前にモーゲンソー米国国務長官が立案したドイツ占領計画の一つ。ドイツの脱産業化、農業国化を計画したものです。ただドイツでは、ユダヤ人のモーゲンソー国務長官がドイツ人の奴隷化を目指したものだとして、極右派による歴史修正主義にも利用されています。それは、反ユダヤ主義の陰謀論だとされています。

 米国トランプ大統領と露国プーチン大統領のファン、シンパが多いのかなというのは、全体的に感じられました。このパネルで、はっきりしたと思います。これだけしっかり製作され、集会会場に正式に立てられているので、主催者側が作成した可能性が高いと思います。
 本当かウソかわかりませんが、デモ集会の主催者が米国トランプ大統領と露国プーチン大統領を集会に招待していた可能性があるとも憶測されています。
 集会では、ケネディ元米国大統領の甥で、反ワクチン派のロバート・F・ケネディさんがスピーチしています。ただ現在、特別な理由がないと米国からドイツに入国することができません。ケネディさんはドイツにどう入国してきたのか、報道機関ではいろいろ憶測されています。
 ドイツの国旗には、基本法146条と入っています。同条は、ドイツの統一と自由が完結し、国民の自由な決定において決議された新しい憲法が施行したら、基本法は無効になるとしています。デモは自由を求めて、米国とロシアの助けを借りて、ドイツに新しい憲法を制定することまで望んでいるのでしょうか。ドイツの極右グループはこれを元に、ドイツに憲法はないと主張しています。
 自由を求めながら、独裁的なトランプ大統領とプーチン大統領に支援を求めるとは、どういう思考経路なのかよくわかりません。自分たちでは何も考えず、「強い」指導者にすがりたいとでもいうのでしょうか。
 そうなら、米国のトランプ大統領支持者と似ているところがあります。

 これは、会場で配布されていた「民主的抵抗(Demokratischer Widerstand)」という週間新聞です。2020年3月にベルリンで最初に行われたコロナデモをきっかけに、発行されたということです。資本主義を批判する左派グループによるものです。
 新聞のトップに、「フェイクパンデミックは終わった。今日から、われわれの政治と経済システムが人間の手に取り戻される。ドイツ人は互いに、基本法をベースに新たに理解する」とあります。
 そして、「1989年(筆者註:ベルリンの壁崩壊)ー 2020年 平和的な革命が完結される」と、大きな見出しがあります。
 一面の記事の最後には、「2020年3月28日(筆者註:ベルリンではじめてコロナデモのあった日)から、共和国全体で新しい民主化運動が展開されている。(中略)われわれの愛とは、取りかかることだ」ともあります。
 新聞は内容的に、イデオロギー的で、左派でも保守的な感じがするほか、1989年の東ドイツの民主化運動から発展していないとも感じます。

 コロナデモの参加者を見ると、社会のいろいろな層が混じり合い、コロナ対策には反対だという1点だけでつながっているように見えます。ただ平和にデモをしている参加者が、極右グループも参加していることを見ないようにしている、知らないふりをしているのがとても気になります。

 ドイツの報道機関も、「極右にソーシャルディスタンスなし」とか、「ナチスよりマスクのほうが邪魔」と、コロナデモを揶揄しています。
 
 ドイツの過去の歴史を振り返ると、これは怖い傾向です。過去の教訓から学んでいないと思います。

 コロナ対策に抵抗して「自由」を守るといいながら、トランプ大統領やプーチン大統領に支援を求め、極右の台頭まで認める「自由」とは何なのでしょうか。とても自分勝手な「自由」に思えてなりません。

(2020年8月30日、まさお)

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関連サイト:
日本人女性のYouTubeビデオは、以下で見れます。
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