従来の発電方法はたくさんの水を使う

 今から15年以上も前の2004年、「18世紀からの遺産」という記事をアップした。記事では、火力発電と原子力発電によってたくさんの水を使っていることを書いた。

 これまでサイトでは何度も書いてきたが、火力発電にしろ、原子力発電にしろ、従来の発電方法では燃料を燃やして熱を発生させる。その熱によって水を加熱して蒸気を発生させ、蒸気でタービンを回転させて発電機を動かす。

 でも、蒸気を発生させるには水が必要だ。発生させた熱は、さらに冷却しなければならない。冷却するためにも、さらにたくさんの水が必要となる。これは、2011年に起こった福島第一原発事故を見てもわかると思う。

ヨーロッパでは、蒸気機関を利用する火力発電所や原子力発電所には、冷却塔が必要。

 その一方で、人類を含め生物は、水なしには生きていくことができない。水は、とても貴重な資源なのだ。国連総会は2010年7月、きれいな水を手に入れることができるのは基本的人権だと決議した。飲料水が十分確保され、安全かつ確実に供給されなければならない。さもないと、基本的人権は保護されない。

 この基本的人権の原則と、大量の水を使う発電とは両立するのであろうか。まず、発電にどれだけの水が使用されるのか、それから見てみよう。

 ぼくは、前述した記事「18世紀からの遺産」において、発電において必要な水が何人分の水の摂取量に相当するのかを試算してみた。

 その結果、ドイツにおいては1年間に、世界の人口の75%が年間必要とする水の摂取量に当たる水を発電のために消費していた(2004年試算)。

 アフリカなど発展途上国では、人々が水不足に苦しんでいる。発展途上国全体では、人口も増加している。でも水の供給量は、増えるどころか、減るばかりだ。地球の温暖化で、雨が降らずに干ばつが続き、水を確保するのが難しくなっている地域さえある。

 水不足が深刻だ。

 たとえば、2011年の世界の総人口は70億人、発展途上地域の人口は58億人だった。つまり、世界の人口の80%以上が発展途上国で生活している。ドイツの発電において年間消費される水の量があれば、発展途上国の90%以上の人々に対し、1年を通して確実に水を供給することができる。

 発電に使用される水は、単に「使い捨て」されるわけではない。冷やして「リサイク」されるものも多い。だから前述したように、数値だけによって単純に比較するのは適切とはいえないとも思う。

 さらに比較するには、地理上、気候上の違いも配慮する必要がある。でも、工業国と発展途上国の間で水の分配が極端に不公平になっていることを示すには、それで十分ではないかと思う。

 これは、水不足に苦しむ発展途上国では、原子力発電や火力発電を行ってはならないということでもある。発展途上国で原子力発電と火力発電を行えば、飲料水として使用できるきれいな水に対する基本的人権は保証されない。

 ドイツの場合、二酸化炭素排出量の約40%は発電によるものだ。だから、発電において二酸化炭素の排出量を削減できれば、削減効果は高い。この事情はどの国でも同じだと思う。そのため、日本をはじめとして二酸化炭素を排出しない原子力発電に対する期待も大きい。

 しかしこの期待は、熱を発生させる工程にしか当てはまらない。発電に必要となる水の消費量は、原子力発電を拡大させれば、それだけ増大する。

 発電に水の問題が発生するのは、火力発電と原子力発電の従来の発電方法が蒸気機関をベースにしているからだ。ぼくたち人類は、蒸気機関という18世紀に起こった産業革命の遺産を発電において相続し続けながら、人類の生活の基盤である地球環境を破壊し、汚染し続けているともいえる

 それが、気候変動の問題を引き起こすほか、水の分配において世界の人々の間に不均衡と不公平をもたらしている。 こうした発電に絡む問題を解決するため、発電効率を引き上げるための技術開発を行ったり(たとえば、燃料消費の高効率化や二酸化炭素回収貯留技術など)、1部の国を除くと原子力発電をより拡大しようとしている。ただそれでは、蒸気機関の引き起こす問題は解決できない。

 それがなぜかは、物理学者アインシュタインが適切に答えている。アインシュタインは、「問題を引き起こしたのと同じ方法で問題を解決するのは、不可能である」と述べた。

 ぼくたちは、このアインシュタインのことばを肝に銘じておくべきだ。

(2020年11月05日、まさお)

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