脱産業革命は脱原発と脱石炭をもたらす

 発電の原理は、火力発電であろうが、原子力発電であろうが同じだ。まず燃料を燃やして熱を発生させ、その熱で蒸気を発生させる。その蒸気でタービンを回転させて発電機を動かす。これは、蒸気機関の原理だ。

 ここで問題になるのは、熱を発生させるために石油や石炭、天然ガスなどの化石燃料を燃焼させること。ただ燃焼によって二酸化炭素が排出される。二酸化炭素は地球の温暖化の原因となる温室効果ガスのひとつ。気候に悪影響を及ぼす。そのため、二酸化炭素の排出を回避する方法として、核分裂によって熱を発生させる原子力発電がいいという意見がある。

 ここで注意しなければならないのは、火力発電と原子力発電の違いは熱の発生原理だけだということ。蒸気を動力源として発電するという原理は変わらない。 ここで発電に必要なのは、前述したように、熱と蒸気だ。熱を発生させるため、化石燃料を燃焼させると、二酸化炭素を排出する。それが問題。それに対して、原子力発電では二酸化炭素を排出しないからいいといえるのか。でも、それも問題だ。

 原子力の利用が市民の健康と幸福を守るべき憲法に反しているという議論がある。でも、原子力を発電することに違憲判決が出たことはないと思う。ただ利用者負担の原則からいえば、原子力発電によって発生する放射性廃棄物を後に残る世代に残していくこと、さらにその資金負担も後の世代に残していくことには、世代間の公平さがない。

 それでいいのか。

 この問題は、ぼくたち同時代人に課せられた倫理の問題となる。その点で、ドイツが福島第一原発事故後に倫理委員会を設置して脱原発を確定させたことに、日本で注目されたのはよくわかる。

 ただドイツの倫理委員会は、日本でいわれるように原子力発電の倫理問題について審議されたわけではない。

 倫理委員会の委員の顔ぶれを見ると、市民の代表が入っていなかった。委員会には、労働者の代表として電力関係の労組代表が1人入っているだけだった。

 これは、どういうことだったのだろうか。

 脱原発を加速させれば、失業者が出る。その社会問題をどう解決すべきか。原子力の代わりに再生可能エネルギーを促進するにしても、それによって市民に負担増を課さなければならない。再生可能エネルギーの促進で送電網を整備する必要も出てくる。

 これらの負担を、社会は一度に追うことがことができるのだろうか。

 倫理委員会では、目の前にある実務的な問題について審議されただけだった。脱原発と再エネへのエネルギー転換に向けて、まず直前の問題について社会的なコンセンサスを得る。そのための指針を示すのが、倫理委員会の目的だったと思う。

 脱原発と脱石炭、再エネへのエネルギー転換を実現するには、経済構造と社会構造の改革、価値観の改革、生活スタイルの改革など、長期にわたって社会が変わっていかなければならない。それについて、社会にどう説明するのか。でも倫理委員会は、そこまでつっこんでいない。市民に対しても、そこまでは要求していない。

 他国がどうあれ、ドイツは脱原発の道を進む。再エネへのエネルギー転換を実現するのだ。それに向け、倫理委員会はメッセージを発しただけだった。

 ぼくたち現代人は、いろんな意味で過渡期にいると思う。豊かさて何?、成長て何?、働くて何?。その価値観が変わるべき時期にきている。グローバル化と情報化が進み、世界は狭くなった。でも逆に、自分の生活しているところ、足下が大事になってもいる。

 それと同時に、ぼくたちの目の前には高齢化問題、資源問題、エネルギー問題が難題として待ち構えている。この過渡期において、社会がどう変わるべきかは、エネルギー転換ととても深く関わっているといわなければならない。

 その基盤にあるのは、すでに述べたが、脱産業革命することだ。そしてその一貫として、脱原発と脱石炭が含まれる。

(2020年10月29日、まさお)

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